花守の道
通勤の朝、川沿いの道を、駅まで歩く。
ふさふさになった桜並木の緑が風にゆれて、重たい心を慰めてくれる。
最近、桜の下で草刈りをするおじいさんを見かけるようになった。
最初は区の職員さんかと思ったけれど、ずいぶん高齢だし、いつも一人で、小さな鎌で草刈りをしているところを見ると、委託業者さんでもなく、個人のボランティア?のような感じがする。
花守、という言葉が浮かぶ。
先日観たお能「女郎花」の、前場と呼ばれる前半部に現れる老翁。
旅の僧が、咲き乱れる女郎花を手折ろうとしたのを見て、「のうその花な折り給ひそ」と声をかけ、自らを「この野べの花守にて候」と名乗る。
(昔の人の言葉って、なんてやわらかなんだろう!)
実はこの花守は化身であり、この世の人ではない。
草刈りのおじいさんも、その姿の神々しさからみて、花の化身なのか。
朝とはいえ気温も高くなってきたので、草刈りは大変そうだ。かがんで草と向き合う鼻先から、汗がぽたぽた落ちている。
ありがとうございます、と心の中で唱えながら通りすぎる。
今日は思いきって挨拶してみようかな、と思った朝、おじいさんはいなくなっていた。
花守によって整えられた道は、黒々とした土が現れ、散髪後のようにさっぱりしていた。
公園に一番似合う君だから花守からも逃れて綿毛