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調子の良し悪し

若いころ、上司から「年をとったら、体調の良い日なんて、ないから」と言われたことがある。
中年になってみると、たしかに、いつもどこかしら不調だ。

でも、それでちょうどいいのかもしれない。
絶好調だったら、それは夢か、死が近いのかもしれないし、絶不調が続いたら、生きるのがしんどい。

安田登さんの「能ー650年続いた仕掛けとはー」(新潮新書)に、印象的なお話がある。

能の音楽を担当する「囃子方」のうち、鼓には「大鼓」と「小鼓」があって、この二種類の鼓が同時に最適な状態となる天気や湿度はないのだそう。

「大鼓」は演奏前に火鉢でカンカンに乾燥させるほど湿気を嫌いますが、一方の「小鼓」は舞台上でも調子紙という和紙に唾をつけて湿らすほど湿気が必要です。「大鼓」は晴れて乾燥した日によく鳴り、「小鼓」は湿度の高い日によく鳴る、ということです。

安田登「能」

大鼓は奇数拍(頭打ち)、小鼓は偶数拍(裏打ち)。晴れて大鼓がよく聞こえると、囃子の進行はゆっくりになり、雨で小鼓がよく聞こえると、速くなる。

今日、どこか調子が悪くても、別のどこかが良いかも、と思えれば、少し気が楽かな。

どこもかしこも悪いときは、家に帰って、寝よう。


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