美しく愚かものたちのタブロー
この本を読むと松方コレクションが全て日本にあったら…戦争なんてなければ…という悔しい思いが凄い込み上げてきます。
西洋美術館の礎となっている松方コレクションを揃えた松方幸次郎の話です。彼の業界人としての歴史が細かく書かれており、日露戦争から第一次大戦国際感覚で財をなす川崎造船所(神戸)についても知ることができます。現在は、川崎重工業となっており、企業の歴史について、川崎重工業のホームページに書かれているのでよかったらURLからみみてください。川崎というのは神奈川県にある川崎市かと思っていましたが、創業者の川崎正蔵さんからきていると言うことを初めて知りました。勉強になります。
本書のタイトルになっているタブローとは絵画のことです。タイトルが『美しき愚か者たちの絵画』ではなく、タブローというのがいいですよね。タブローというだけで何か神聖で特別な感じがします。本書の内容でもタブローは特別で、タブローに心動かされ、タブローに振り回されて行く物語です。戦時という環境下で苦しみながらそれでも将来のために、そして松方さんの意思を叶えるために熱く動く話は胸を打ちます。
クロード・モネの連作〈睡蓮〉について、美術史家田代雄一が交渉人としてフランスから松方コレクションを取り戻すためのストーリーが最高です。この本を読むまで知らなかったのですが、松方さんとモネとの交流も書かれており、実際西洋美術館の常設展示にも交流のことが書かれています。この本を読んでから西洋美術館の常設展示を観ると感慨深いものがあります。全てではないものの、あれだけの作品を常設展示として見れるのは本書に出てくる人たちの奔走があったからだと思うと感謝の念でいっぱいになります。
世界遺産検定に出てきたル・コルビュジエや美術検定で学ぶ黒田清輝など検定に出てきた人物が登場するので親近感が持てました。あまり、昭和の時代の美術について学んだりする機会がないので新鮮でした。