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人間とは何か【100分de名著】ハイデガー『存在と時間』

今回読んだ100de名著はハイデガーの『存在と時間』でした。

『存在と時間』は100de名著で学ぶだけでもなかなか難読でしたが、現代の社会問題に本質的にかかわる話だと思いました。

SNSでの誹謗中傷やいじめ、自国第一主義など、みんながやってるからという同調圧力、空気を読みながら行動することによって発生する無責任・無自覚の暴力・・・
これに対抗するための気づきを与えてくれる本です。

残念ながら『存在と時間』は未完のままとなっており、「存在とは何か?」という問いの答えが記載されていません。

ただ、それまでの考察からある程度道筋は見えているような気がしました。ある意味結論は現代を生きる私たちが過去や現代から学び、未来がよくなるよう行動することなのかもしれません。

難読で理解力がないので理解が足りない部分があると思いますが、自分なりに理解した点や感想をざっくり記載します。

「100分de名著」の構成

第1回 「存在」とは何か
第2回 「不安」からの逃避
第3回 「本来性」を取り戻す
第4回 『存在と時間』を超えて
解説者 戸谷洋志 哲学者、関西外語大学准教授

『存在と時間』がテーマ

この本のテーマはタイトルにもある「存在とは何か」です。

「存在とは何か」=「人間とは何か」というものを人間という過去現在未来という人間形成に密接な関わりがある時間とともに考察しています。

ハイデガーは対象を知ることに重きを置いており、存在や時間、人間についての理解したり、しっかり定義しています。

『存在と時間』で出てくる専門用語

『存在と時間』では様々な専門用語がでてきます。重要な用語を覚えておくと理解しやすいと思います。重要な用語は以下のものです。

・現存在(ダーザイン)

人間のことです。人間とういう言葉を使うと先入観や偏見が出てしまうため、「存在とは何か」というテーマからずれてしまうためできた用語。

・世人(ひと)

「ひと」または「せじん」と読みますが、100de名著では「ひと」と読みます。世間や空気を読むの空気=世の中や共同体のなかの空気のことです。

・頽落(たいらく)

頽落とは、①世間話、②好奇心、③曖昧さ の特徴を持つものです。自分ではなく世人(ひと)の空気を読んだコミュニケーションをすることにより、世人に振り回される生き方になることです。

・決意性

本書から引用すると"「良心の声」に対して耳を傾けること"と解説しています。例えば、いじめ問題で、「みんながしているからしかたなかった。」ではなく、「本当は一緒にしないことができたのではにか、助けれたのではないか。」と気づいたりすることです。

対象を理解する

まず、「存在とは何か」=「現存在(人間)とは何か」を考えなくてはなりません。

問題解決をするために、現状把握やその問題を把握することが不可欠です。

そのことと同様にハイデガーも対象を理解することを重視しています。引用部分ハイデガーによれば、私たちが何かを問うためには、問われているものについて、何らかの理解を持っていることが必要です。

現存在を理解するためには、日々の暮らしのなかでどのように存在しているか、時間的にどのように存在しているかを考察していくことになります。

世人がどう影響しているのか

現存在の存在とは何でしょう。

解説者戸谷さんは以下のように解説しています。

彼によれば、現存在は自分を「自分でないもの」によって理解し、日本来的に生きています。「自分ではないもの」によって理解し、日本来的に生きます。「自分ではないもの」によって自分を理解する

100de名著『存在と時間』NHK出版 戸谷洋志さん

つまり、自分ではないもの=世人=世の中の場の空気、によって存在しているということでしょう。

ここは重要なので、また引用します。

自らを世人に引き渡してしまった現存在は、世人が考えるように考え、世人がするように行動しています。つまり、その場その場の空気を読み、「みんなもこうしている」という規範や社会通念に従って生きるということです。

100de名著『存在と時間』NHK出版 戸谷洋志さん

自分で考えたことや行動したと思ったことは、世人の考えや行動などということです。

たとえがあっているかわかりませんが、自分が美しいと考えて作った作品も、自分が考えて自分が生んだように思うかもしれませんが、評価をするとき、結局世人で美しいと思われるかどうかという「世人」=「その場の空気」を読んで考えて作っているので世人の考えということになります。

世人から逃れられない

世人から自由になるのは難しく、いやいや、私は自分をしっかり持っているから世人に影響されていないと思っていても、結局世人から逃れていないことが多いです。

以前100de名著『ディスタンクシオン』を読みましたが、社会学も同じ事を言ってます。自由だと思っても、結局社会の規範に則ってしまう。群衆から身を引こうとして、群衆的になってしまうパラドックスです。俺は社会のレールに縛られず、自由に生きるといって旅に行く人も結局自由に生きる群衆の一人になります。このように逃れられないのです。

世人に飲み込まれた現存在がどう生きるかハイデガーは分析しています。

その生き方を分析するのに出てくるのが、『頽落』です。

先ほどの専門用語でも載せましたが、「頽落」には、3つの特徴(①世間話、②好奇心、③曖昧さ)があります。

理解したことをかいつまんで書くと、

世間話により好奇心がコロコロ変わり、自分自身が曖昧になり、そして、退廃していくのです。自分ではなく世人の話をし、空気を読んだコミュニケーションをすることで振り回され世人に支配される。
そして、自分の考えではなく、皆が正しいとみなしていることに従って行動することで、無責任になっていきます。

これは、いじめやSNSの誹謗中傷問題の本質的なことだと思いました。難しい本ですが、義務教育など教育現場で教えるといいと思いました。

では、なぜ世人に支配されてしまうのでしょうか。

戸谷さんは以下のように解説しています。

ハイデガーの答えは、極めてシンプルです。世人に同調してさえいれば「安心」できるからです。確かに、世の中で大衆と違うことをすることは不安になります。

100de名著『存在と時間』NHK出版 戸谷洋志さん

確かに、起業をしたり、皆が知らない趣味をもつこともなんか変なのかと不安になります。

「安心」を得るためには、自分が好きでもないことの情報収集をしたり、努力をします。

それは、本当に疲れてしまいますし、現代的な問題でもあると思います。

私も一時期していましたが、SNSのために義務感からお店に行ったり、食べたり、色々します。お金も時間もかかり疲れてしまいます。世の中と比べて安心するのは、上限がなく、また、いつまでも続くため心身的につらくなるだけです。そういった問題の根源も「安心」というものが存在しているからなのでしょう。

自分らしく生きるためには

では、自分らしく生きるためには、どうすればいいのでしょうか。

それは、誰とも共有できない足元にある死を意識し、「良心の呼び声」である「別のことがありえた」という気づくことで、「世人に従わない方法があったのではないか」という世人とは別の生き方に気づき自分らしく生きられるんでないのでしょうか。

「世人にとらわれた状態を乗り越えるには」「自分らしい生き方とは」というこうとについて、戸谷さんは、以下のように述べています。

「自分の人生を、自分の人生として引き受けよう」、ということです。「引き受ける」とは、他人のせいにしない、「みんな」のせいにしないということです。「仕方なかったんだ」と言い訳しないことです。

100de名著『存在と時間』NHK出版 戸谷洋志さん

そして、ハイデガーは以下のように述べています。

先駆的な決意性は、<負い目ある存在可能>を、現存在に最も固有な〔他者とは〕無関係なものとして、良心のうちにあますところなく刻み込むのである。

100de名著『存在と時間』NHK出版 原文引用より

こういった素晴らしい考えのハイデガーも戦争へ加担してしまいます。

世人から離れ自分らしく生きるのがいかに難しいか物語っているのではないのでしょうか。

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