父親のこと5
父親が80代に入り、認知症の症状が現れるようになりました。
最初に変だと思い始めたのは、母でした。
数十年前に売った土地のお金はどうしたんだ!と、父親は怒ったようにある朝母に切り出しました。
数十年前のことを突然言われて、母も戸惑い、記憶がすぐには出てこなかったようですが、一方的に父親から「全部お前に預けた!」と怒ったように言われ、考えていると、思い出し、「お父さんが国債を買うといっていたのはどうしたの?」と聞き返しました。
そうすると、急に父親は黙り込み、そのまま席を立ち、居間を出て行ってしまったのでした。
大きなお金が入って来て、我慢して全て母に渡すような父親ではありませんでした。
自分のしたことや落ち度は棚上げして平気な人でしたから、母に国債のことを言われて、記憶が呼び戻されて(まずい)と思ったのでしょう。
退職金を使い果たして、思い通りになるお金が少なくなって、急に思い出して言い出したことだと思います。
私はそれだけのことだと思ったのですが、母は、この頃から(ちょっとおかしい)と思い始めていたようです。
外出が好きな父親でしたので、それからも毎日外出していましたが、段々と出かける回数が減り、糖尿病の病院へも母が付いていくようになりました。
病院でも困った患者だったようでした。
(父親は糖尿病で片目の視力と片耳の聴力を失っていました。)
それからは、200万円が無くなったとか、30万円が無くなったとか、30万円くれとか言い出すようになりました。
一日中寝たきりで、歩くのはトイレに行く時だけ、それも、行ったり来たり、家族がトイレを使うのが大変なくらいの頻度でトイレに行くようになったりました。
真夜中でも、自分が目が覚めた時にテレビを大音量でつけたり、母が運ぶ食事にも「粗末な飯でもうまいわ」と言ったり、認知症になっても言葉の悪さだけは衰えない父親でした。
そして一昨年の夏、トイレで転んで、かかりつけ医に電話したところ、「低血糖の疑いがあるので救急車を呼んで下さい」
「絶対に行かん!!」と怒鳴り散らしていた父親でしたが、母がなだめ、「段々ご飯の量も食べられなくなってきているし、一度お医者さんに診てもらおう」と説得し、近所の総合病院へ1カ月入院しました。
この1カ月は、私たち家族にとって、心がやっと休まった1か月でした。
しかし、1か月後、退院し父親は戻ってきました。
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