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仏教と芸能の香港 ジャッキー・チェンも歌う『般若心経』。 お経は暗くてつまらないか? 仏教ポップスへのいざない 4

< 仮名・ローマ字付き 広東語『心経』の歌詞を作り、そのお知らせを付け加えました。 令和6=2024年8月5日 >

はじめに

「香港」という言葉からあなたは何をイメージしますか? 
 
→ 中国共産党により切り崩されている自由で民主的だった中国人社会。
→ ブルース・リー、ジャッキー・チェン他多数のスターを生んだ芸能大国。
→ 金融、貿易、商業で有名だった東アジアの代表的経済先進地域。
 
いずれも間違いではないですが、日本人が知らないもう一つの側面、
それは、
→ 共産化された中国”本土”よりずっと本来的な「仏教」を良く保存し、繁栄させている社会
 そして
 仏教界・芸能界ともに日本が遠く及ばない 「仏教ポップス 」( 佛教流行歌曲 )が普及している社会
 です。
 
 本日は、その香港仏教ポップスのごく一部をご紹介したいと思います。
(※ この文章は、令和6=2024年6月16日 應善寺門徒会で発表する予定の手元原稿から発展したものです。実際の発表内容はこの文章と異なる可能性もあります。
また、本サイトは「宗教法人應善寺」の公式サイトではありません)
  
 

香港の代表的仏教ポップス紹介

 

歌手: 譚詠麟[たんえいりん、アラン・タム]、成龍[ジャッキー・チェン]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]を含む多数の著名な歌手たち
 曲(経): 『般若心経』
 『香港群星 合唱心經』(香港オールスター『心経』合唱)

< 梅艷芳、譚詠麟、郭富城、劉德華、張學友、鍾鎮濤、李樂詩、黎明、草蜢、趙學而。

単独でパーツを担当した歌手の中国名を登場順で紹介。英名は省略。成龍は合唱で参加 >
作詞(漢訳):「三蔵法師」玄奘[げんじょう]

作曲・編曲:林敏驄[りんびんそう。アンドリュー・ラム Andrew Lam]

 一人でも会場を満員にできる、日本なら「紅白歌合戦」級の大物歌手が次々と登場してマイクをリレーする信じ難いコンサートです。
 
< 開催1999年10月3日、会場「紅館」(正式名称「紅磡[こうかん]香港体育館」、英名「Hong Kong Coliseum=香港コロシアム」。背後に「香港演藝界9·21傳心傳意大行動」(香港芸能界921伝心伝意大行動)の横断幕が見えることから、1999年9月21日台湾発生の「921大地震」被災者支援の仏教系チャリティー・コンサートと判明。 根拠:
https://www.facebook.com/8090cantopop/posts/1210764072268767/
https://www.bilibili.com/video/BV17k4y127tx/
                   令和6=2024年6月15日 訂正 >

 ライブ録画のため画質と音声が今一つなのが、玉に瑕[きず]。
 
 以下でも紹介する、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]は、2分10秒あたりに登場、
「 無罣礙故[モウ クワー(ンコ)イ ク]、
  無有恐怖[モウ ヤウ ホン ポウ]、
  遠離顛倒夢想[ユィン レイ ディン ドウ モン セン]、
  究竟涅槃[カウ キン ニッ プン] 」
の部分を歌います。

< 令和6=2024年7月5日 追加 ↓ >
 歌手(登場順):  
梅艷芳[ばいえんぽう、アニタ・ムイ。女性]、譚詠麟[たんえいりん、アラン・タム]、郭富城[かくふじょう、アーロン・クオック]、劉徳華[りゅうとくか、アンディ・ラウ]、張學友[ちょうがくゆう、ジャッキー・チュン]、鍾鎮濤[しょうちんとう、ケニー・ビー・チュン]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]、黎明[れいめい、レオン・ライ]、
草蜢[そうもう、グラスホッパーズ。男性3人グループ]、趙學而[ちょうがくじ、ボンディー・チュウ。女性]。 成龍[せいりゅう、ジャッキー・チェン]は合唱で参加。
 曲(経): 『般若心経』
 作詞(漢訳):「三蔵法師」玄奘[げんじょう]

作曲・編曲:林敏驄[りんびんそう。アンドリュー・ラム Andrew Lam]

香港群星《般若波羅蜜多心經》現場版-1999 KTV with vocal (數位修復)

https://www.youtube.com/watch?v=HbE7nCCPVPw

 上記『香港群星 合唱心経』と基本的に同じものですが、デジタル・リマスターしたこちらの方が、当然のことながら、画質と音声(特に画質)が綺麗です。
 また、歌の開始前の譚詠霖[たんえいりん、アラン・タム]による説明部分がより長く、これが台湾「921大地震」被災民への支援コンサートであることがよく分かります。
 また、カラオケのように、画面下に歌詞=『般若心経』の経文が、歌唱部分に合わせて変色しながら出てくるので、『般若心経』の勉強にもなります。
 難点は、登場してくる歌手の名前が画面に出てこないことですが、これは、香港・台湾の視聴者にとって、彼らの顔と名前は問題無く一致するので、不必要な情報ということなのでしょう。
 令和6=2024年7月5日 追加 ↑ >


歌手: 彭羚[ほうれい。キャス・パン。女性]、許志安[きょしあん、アンディー・ホイ。男性]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]による デユエット + 1 のスタイル
曲(経): 『般若心経』(広東語)
『心經 (粵)』

作詞(漢訳):「三蔵法師」玄奘[げんじょう]

作曲・編曲:林敏驄[りんびんそう。アンドリュー・ラム Andrew Lam] 

 こちらは、よい環境で録音したようで、音声が綺麗です。
 彭羚[ほうれい、キャス・パン。女性]許志安[きょしあん、アンディー・ホイ。男性]は、上記『香港群星 合唱心經』では歌っていないものの、歌唱力は彼らに勝るとも劣りません。こういう歌手たちが「群星」に入っていないことに、逆に、香港歌壇の層の厚さを感じます。
 李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]は、ここでは3人目、1分06秒あたりに登場、
 「 不生不滅[パッ サン パッ ミー]
   不垢不浄[パッ カウ パッ ツィン]
   不増不減[パッ ツァン パッ カム]、、」
 以降を他の二人とともに歌います。

 歌詞(経文)の字幕や、歌手たちの顔写真が無いのが、残念。
 < 
 そこで、仮名・ローマ字付き 広東語『心経』歌詞(『般若心経』経文)を作りました。

の末尾に載っています。

それを見ながら、この三人の素晴らしい合唱をお聞きになるようお薦めします。 令和6=2024年8月5日 >

 歌のレベルの高さに比べて、再生回数2347回、いいね18回、と極端に数値が低いのも残念(2024年6月10日2時39分アクセス)。
 
 https://note.com/kind_clover193/n/n1cb566960f5d
  

歌手: 王菲[おうひ。フェイ・ウォン](女性)

曲(経): 『般若心経』(北京語)

作詞(漢訳):「三蔵法師」玄奘[げんじょう]

作曲:杜薇  編曲:郭思達

https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=王菲 心経&mid=500AEBA22B211333DA82500AEBA22B211333DA82&FORM=VIRE

 王菲はフェイ・ウォンという名のもと、恐らく日本で最も知られた中華圏の女性歌手でしょう。また、敬虔な仏教徒歌手として、中華圏では有名であり、「王菲居士」とも呼ばれています。

 王菲と張智霖[チョン・チーラム](男性)の『般若心経』(広東語)デユエットは、以前、私のブログ
https://note.com/kind_clover193/n/n64d8b238a5e5

で紹介しましたので、今回は、広東語版とは別の作曲者による、ソロの北京語の『般若心経』を紹介いたします。
 王菲[おうひ。フェイ・ウォン]は、ステージ上で軽く百人は超えるであろう僧侶たちの中に立ち、合掌したまま、緩やかにその澄んだ美声を聞かせます。中国大陸陝西[せんせい]省の「法門寺」で行なったコンサートのようです。

 (※ 『般若心経』の現代日本語訳については以下のサイト等をご覧ください。
『般若心経』を現代語訳するとこうなる - 存在が存在することの意味を説くお経 - - 禅の視点 - life - (zen-essay.com)
https://true-buddhism.com/sutra/heartsutra/heartsutrazenbun/ )
 

歌手: 鄺美雲[こうびうん。キャリー・クウォン]
曲(経): 『大悲咒』[だいひしゅう](別名:『十一面觀音咒[しゅう]』、『藏傳大悲咒』)

 https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=hdiqBFyfKIM

  これまで紹介してきた歌手たち同様、鄺美雲[こうびうん。キャリー・クウォン]も中高年になってから、仏教ポップスにシフトした人で、2005年には、『禪美雲聲』(禅美雲声)という仏教音楽(と彼女のかつてのポップスを合わせた)CDアルバムを出しています。若い頃には「ミス香港」にもなった人ですが、ちゃんとした歌唱力も持ち、ただの美人ではありません。
 
 『大悲咒[だいひしゅう]』(正しくは『十一面観音咒[しゅう]』。別名:『蔵伝大悲咒』)は、日本であまり知られていないですが、香港を含む中華圏では、『般若心経』と並び、いや、それを上回り、多くの作曲家・編曲家、歌手によって楽曲化されています。
 この歌の歌詞(経文)は、古代インド語「サンスクリット」の発音を漢字で写しただけなので、いくら漢字とにらめっこしても、意味は分かりません。
 大意は、ひたすら観音菩薩と大日如来の名をとなえ、たたえるものです。

 今回、歌詞(経文)は解説しませんが、歌の中にしばしば「ナモ」という語が聞かれることにはご注意ください。これは、「南無阿弥陀佛」の「南無[なも]」と同じです。
 ネット上では複数の人が鄺美雲の『大悲咒』を載せ、それぞれ色々な動画を付けていますが、個人的に、このチベット仏画の画像が気にいっているので、これを選びました。21分56秒もありますが、正味は3分40秒ほどで、あとは繰り返しです。
  

歌手: 林憶蓮[りんおくれん。サンディ・ラム]
曲: 極樂願文 Brief Amitabha Aspiration Prayer (ごくらくがんもん)、

別名: 西方浄土祈願文

作詞 : 明珠多傑尊者
作曲 : 林憶蓮  編曲 : 倫永亮

  林憶蓮[りんおくれん。サンディ・ラム]は、香港歌謡界をリードしてきた実力派女性歌手です。そして、「憶蓮」という名にも表れているように、敬虔な仏教徒(それもおそらく浄土教系の)でもあります。
 林憶蓮と許志安(アンディ・ホイ。きょしあん。男性)のデユエット『阿彌陀佛心咒[あみだぶつしんじゅ]』は、以前紹介したことがあるので

ここでは、ソロの別の曲『極楽願文』(別名:『西方浄土祈願文』)を紹介します。
 編曲倫永亮[りんえいりょう]は香港のスターたちに数多くの楽曲を提供し、香港の歌壇をリードしてきた編曲家ですが、中高年になってからは、仏教音楽にその才能を振るうようになりました。CD『樂行佛國』(楽行仏国)はそんな彼の仏教音楽アルバムで、その中に、「阿弥陀仏心咒」もこの「極楽願文」も入っています。

 「極楽願文」は林憶蓮が歌うチベット語の歌です。
 漢民族がみなチベット人を馬鹿にしているかというと決してそんなことはなく、特に香港、台北、上海あたりの漢民族仏教徒が、チベットを佛教の本場・上方[かみがた]と見なして尊崇しているらしいことは、こういう仏教ポップスを調べていて、しばしば体感されることです。(この感覚は、東京の人間が - 大阪、名古屋、広島等、他の都会には別段意識がないのに対して - 京都、奈良、比叡山、出雲大社、古墳等となると、急に頭が上がらなくなる感覚と似ていると思います)。
 

結び 

 さて、本当にざっとですが、香港の仏教ポップスについてごく一部を見てきました。
  
 今回、紹介してきた歌手たちは、世代的に私(1960年生まれ)に近く、みな若い頃スターとして売れていた人たちです。
 天安門事件(1989年)を含む3年間、中国大陸に滞在していた若き日の私は、それまでの毛沢東や人民解放軍を賛美する泥臭い中華人民共和国のプロパガンダ歌謡が中国語の歌と思いこんでおりましたから、香港や台湾の垢ぬけた中国語ポップスを聞いた時には本当に新鮮な衝撃を受けたものです。

 その後、日常の忙しさにかまけ、必ずしも中華ポップスをフォローしてこず、仏教の本を読んだり、寺を訪問していたりしていた私が、40代になって近隣アジア各国の寺社を観光していた時、往年の香港のかっこいいお兄さん・綺麗なお姉さんだった歌手たちが、今や素敵なおじさん・おばさんとなり、後半生のライフ・ワークのように、仏教の経典や念仏をポップス化したものを熱唱していることを知ったのでした。

 今後は、『般若心経』や『大悲咒』等、各楽曲(経典)について、もっと詳しく歌詞(経文)を解説した記事を書いていきたいと存じます。
 
 令和6=2024年6月10日
(仏教ポップスにこよなく理解を示してくれていた母・白井耀子の四十九日を終えて)

↑ 本ページ最上部の写真: 香港 萬佛寺(万仏寺)の五百羅漢像

< 令和6=2024年8月5日 
仮名・ローマ字付き 広東語『心経』の歌詞を作り、
そのお知らせを、
彭羚[ほうれい、キャス・パン]、許志安[きょしあん、アンディー・ホイ]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー]
のトリオ『心経』
の後ろに付け加えました。 >

< 令和6=2024年7月8日の主な変更箇所 ↓ >

 『大悲咒[だいひしゅう]』(正しくは『十一面観音咒[しゅう]』の「咒[しゅう]」の読み方を、「じゅ」から「しゅう」にしました。
 「咒」(「呪」の異体字)には、「しゅう」「しゅ」「じゅ」の読み方があります。
 しかしながら、『大悲咒』(正しくは『十一面観音咒』)に、「呪[のろ]い」の内容は全く無いです。
 意味的には、むしろ「祝言[しゅうげん]」に近いです。
 よって、「呪い」との混同を避けるため「じゅ」の音を外し、「祝言」の「祝[しゅう]」と同じ「しゅう」を採用しました。

 他の微修正箇所については、説明略。
 < ↑ 令和6=2024年7月8日の主な変更箇所 >


 < 令和6=2024年7月5日の主な変更箇所 ↓ >

 『香港群星《般若波羅蜜多心經》現場版-1999 KTV with vocal (數位修復)』
の動画URLや解説を追加しました。

 『作詞(漢訳):「三蔵法師」玄奘[げんじょう](異説あり)』
の『異説あり』を削除し、通説の『「三蔵法師」玄奘[げんじょう]』だけにしました。この異説は興味深いものではありますが、私の知識が不充分だからです。
  < ↑ 令和6=2024年7月5日の主な変更箇所 >

 

 

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