溺愛したりない。(試し読み4)
また、キスされたっ・・・・・・!
しかも、今回のキスはファーとキスとは違った。「んっ・・・・・・」
押し付けるような深いキスに、恥ずかしい声が漏れる。
「あっま」
高良くんはそんなことを言いながら、あろうことか私の唇を舐めてきた。
「ひゃっ・・・・・・」
逃げようと身をよじるけど、高良くんに腕を掴まれる。
大きな手はびくともしなくて、私はされるがままだった。
く、苦しい・・・・・・息がっ・・・・・・。
「高良くん、待って・・・・・・っ」
「声、可愛い」
か、会話が成り立たないっ・・・・・・。
このままじゃ、窒息死するっ・・・・・・。
「ダ、ダメです・・・・・・!」
最後の力を振り絞って、高良くんの胸を押した。
ようやく離れてくれて、大きく息を吸い込む。
な、何、今のキスっ・・・・・・。
あんなの、ダメだよっ・・・・・・。
と、というか、恋人同士でもないのにキスするなんて、おかしい・・・・・・。
「・・・・・・ごめん、暴走した」
意外だったのは、高良くんが謝ってくれたこと。
倫理観がおかしいとは思うけど・・・・・・プライドが高そうな彼が素直に謝罪してくれたことに驚いた。
で、でも、謝られたら、強く言えなくなってしまう・・・・・・。
「嫌だった・・・・・・?」
まるで捨てられた子犬みたいに、不安そうに見つめてくる高良くん。
その表情に、うっ・・・・・・と言葉に詰まる。
母性本能くすぐられるって、こういうことなのかもしれない・・・・・・。
それに・・・・・・❝嫌だった・・・・・・?❞と聞かれたら、返事に困ってしまう。
普通なら、好きでもない人にキスをされたら気持ち悪いとか、嫌だって思うはずなのに・・・・・・そんなふうには思わなかった。
ただ、恥ずかしさでパニックになって、そんな自分が怖くて・・・・・・。
「い、嫌というか・・・・・・こういうのは、恋人同士がするもので・・・・・・」
嫌だと言い切れなかった自分が、もっと恥ずかしくなった。
私、すごく軽い、女かもしれない・・・・・・。
「じゃあ恋人になって」
えっ・・・・・・?
こ、恋人・・・・・・?
好きだと言われたあとだから、驚くことではないのかもしれないけど・・・・・・私と高良くんが恋人なんて、あり得ない。
容姿端麗を絵に描いたような人と、冴えない私が釣り合うはずない。
「俺はまーやが好き。まーやは?」
高良くんの瞳はいつもまっすぐに私を見つめてきて、目を逸らすことも許してくれない。
私、は・・・・・・。
「ご、ごめんなさい・・・・・・わかりません・・・・・・」
正直、こんなにも素敵な人に好きだと言ってもらえて、嬉しい気持ちはもちろんある。
だけど、高良くんのことを全然知らないし・・・・・・今まで恋愛のひとつもしたことがないから、「好き」がどんな気持ちかわからなかった。
「その・・・・・・高良くんに好きって言われて、嫌なわけじゃないです・・・・・・でも、理解が追いつかなくて・・・・・・」
頭の中がいっぱいいっぱいで、悲しいわけじゃないのに涙が溢れてきた。
涙交じりの拙い話し方をする私の頭を、高良くんがそっと撫でてくれた。
「ごめん。俺が焦りすぎた」
頭に手を置いたまま、高良くんは私の顔を覗き込むように視線を合わせてくれる。
「泣かないで。ほんとにごめん。これからはちゃんと、まーやのペースに合わせる」
強引だと思いきや、優しくて・・・・・・怖いと思っていたのに、不安そうに見つめてくる表情はどこか可愛くて・・・・・・。
「まーやが俺のこと好きになってくれるまで待つ」
どうして、私なんかにそこまでしてくれるんだろう・・・・・・。
「泣いてる顔も可愛いけど、泣かせたくない」
「・・・・・・っ」
またさらりと可愛いなんて口にする高良くんに、単純な私はときめいてしまう。
高良くんは私を見つめたまま、眉を八の字に下げた。
「これからも、補習来てくれる?俺と過ごしてくれる?」
高良くんが、こんな顔をするなんて・・・・・・想像もつかなかった。
もっと怖い人だと思っていたのに・・・・・・補習の件は、一度引き受けたからには最後まで責任をもって担当するつもりだし・・・・・・私も、高良くんのことを知りたいと思った。
まだ全然、高良くんが私を好きだなんて現実を受け入れられないけど・・・・・・こんなふうに誰かに好かれたことがないから、素直に嬉しかった。
ストレートに感情表現をされたこともないから心臓が痛いくらいドキドキしてしまう。
「は、はい・・・・・・」
こくりと頷くと、高良くんはぱあっと顔色を明るくさせた。
「よかった」
こんなに喜んでくれるなんて・・・・・・。
誰かに求められると、こんなに照れくさい気持ちになるなんて知らなかった。
「それじゃあ、今すぐ恋人になんのは諦める」
今すぐを強調してそう言った高良くん。
「でも、補習が終わるまでには、俺のこと好きにさせる」
高良くんは続けてそう言って、私に顔を寄せてきた。
えっ・・・・・・。
ちゅっと、可愛らしいリップ音が響く。
額には、唇の感触が残っていた。
「・・・・・・あ、キスはダメなんだった」
すぐに「ごめん」と謝ってきた高良くん。
お、おでこだからまだよかったけど、高良くんはキス魔というやつなのかもしれない・・・・・・。
なんていうか、慣れてるの、かな・・・・・・?
こんなにかっこいい人だから、当たり前だよねっ・・・・・・。
きっと、彼女のひとりやふたり・・・・・・いやいや、10人や20人はいただろうなっ・・・・・・。
そう思うと、少しだけ胸がちくりと痛んだ。
ん・・・・・・?どうして今ちくってしたの・・・・・・?
というか、今思い出したけど、女子生徒たちが高良くんは女嫌いって噂してた気がする・・・・・・。
それは本当なのかな・・・・・・?
気になったけど、私が質問をするより先に高良くんが口を開いた。
「なあ、何がダメで何ならいい?ルール決めよ。俺、ちゃんと我慢するから」
ルール・・・・・・?
待てをされた子犬みたいに、じっと見つめてくる高良くん。
「頭撫でるのはいい?」
「それくらいなら・・・・・・」
「手、繋ぐのは?」
「・・・・・・大丈夫、です」
「抱きしめんのは」
「それは・・・・・・まだ・・・・・・」
抱きしめられるなんて、考えただけで恥ずかしくて逃げ出してしまいたくなるっ・・・・・・。
「じゃあ、どこにならキスしていい?」
「ど、どこも、ダメですっ・・・・・・」
「わかった・・・・・・」
しゅん・・・・・・と、ないはずの耳が垂れているように見えた。
「今は我慢する。・・・・・・恋人になったら、容赦しねぇけど」
・・・・・・っ。
弱気だったかと思えば、急にいたずらっ子みたいな笑みを浮かべた高良くんにドキッとする。
恋人・・・・・・私と高良くんが・・・・・・。
や、やっぱり、全然想像できない・・・・・・。
私の顔を見つめながら、ふっと不敵な笑みを浮かべた高良くん。
「キスしたいから、早く俺のこと好きになって」
甘い声で囁かれて、私の頬が真っ赤になったのは言うまでもない。
こうしてー私と高良くんの、奇妙な❝補習生活❞が始まった。