明治東亰恋伽(試し読み7)

 それにしても、これは一体どういうパーティーなのか。目の前で繰り広げられる豪華絢爛な光景に、芽衣は圧倒されっぱなしだった。
 優雅な管弦楽の音色に合わせて、人々が社交ダンスに興じている。大きなシャンデリアの下では銀のカトラリーが上品な輝きを放ち、お仕着せの給仕たちがきびきびとした動作で飲み物や料理などを運んでいた。
 ただひとつわかるのは、このパーティーはカジュアルではなく、限りなく本気のフォーマルであるということだ。女性は例外なく、ここはべルサイユ宮殿かと見まがうようなクラシカルなドレスに身を包んでいるし、男性陣も燕尾服やフロックコートできっちり装っている。
「あの、チャーリーさん。やっぱり私、帰りたいんですけど」
「肉料理にはもちろん赤ワインだよね。はい、かんぱーい」
 チャーリーは赤ワインの入ったグラスを強引に手渡してきた。グラスのふちがぶつかり、繊細な音を奏でる。
「いや、乾杯とかしてる場合じゃなくてですね。っていうか私、未成年だし」
「はて、未成年飲酒禁止法はいつ制定されたんだっけ?」
 ワインを一気にあおり、チャーリーは首を傾げた。
「確か大正に入ってからじゃなかったかな?てことは、君がこのワインを呑んだとしても罪には問われないというわけだ。ははは、いい時代だねえ」
「な、なにわけのわかんないことを言っているんですか、制服姿で堂々とワインなんか呑んでたら普通に補導されますって!」
「うん。だからそれは、現代での話だろう?でも今はほら、明治の世だし」
「・・・・・・は?」
「あれ、さっき言わなかったかな?」
 景気良くグラスにワインをつぎ足しながら、彼はさらりと告げた。
「ここは平成の現代じゃなくて明治の時代なのさ。つまり君は、僕の偉大すぎるマジックによって百年以上も昔の時代にタイムスリップしてしまったわけなんだけどね」
「・・・・・・・・・・・・」
 またわけのわからないことを言い始めた。
 いくらなんでも酔いの回りが早すぎやしませんか、と突っ込もうとしたその時、
「わっ」 
 誰かと肩がぶつかり、芽衣の身体がぐらりとよろける。バランスを崩してワイングラスもろとも倒れそうになったところを、力強い腕によって素早く抱き支えられた。
「ーおっと。失礼、お嬢さん」
 穏やかに鼓膜へと届く、優しい声。
 優美な雰囲気を漂わせる、見目の麗しい青年が芽衣の顔を覗き込んできた.シャンパンゴールドの光を受けるその瞳に、至近距離で見つめられてどきりとする。
「大丈夫かい?怪我は?」 
「え?あっ、だ、大丈夫です」
 芽衣が慌てて体勢を立て直すと、彼は「それは良かった」と紳士的な微笑みを浮かべた。

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