短編小説。魔法のポケット

雪がしんしんと降っている。

そこには何も感情がなさそうで、

ただひたすらに降り積もる。

積もった雪が音を吸収して、さらに静寂が辺りを響き渡らせる。

張り詰めた空気が、何も根拠のない胸騒ぎになる。

不安が襲いかかってくる。

何かに気付いたのか、彼は私の手を握り、ポケットへ差し込み温める。

彼のポケットが小さくて二人の手が中々入らない。

「ふふっ。そういう所だよっ」と笑う。

2人のとても小さい笑い声が、魔法の呪文だったかのように、一瞬で静寂な世界が消え去り、根拠のない胸騒ぎも不安も消えた。

「……驚いた。こんなにも世界が変わるなんて」

「あなたは、魔法使いなんだね」

「そう、僕は魔法使いなんだよ」

私は、狭いポケットの中で彼の手をギュッと強く握った。

彼はまた、この静寂に包まれた世界から私を救ってくれるのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?