地図記号とスカートについて「つらつら」考える
小一時間程度かかるであろう、最近気になっていた本屋に出かける為、彼女は着替えて準備を整えた。
やや太めの濃いジーンズにやや大きめのTシャツ(UNIQLOUの薄めのブラウン)、足元は黒のVANZオールドスクールといった装いだ。
実を言うと彼女はスカートがあまり好きではない。足まわりに生地が当たり、うっとおしいというかめんどくさいなという感情が少々ついてまわる。
たまの気まぐれでスカートを履くと友人から「よく似合っているね」とか本気かお世辞かは定かではないが、褒められることもしばしばあり、それはそれで悪い気分ではないのだが、やっぱりパンツの楽さ加減が勝ってしまう。
パンツは男性でも女性でも履くけど、スカートは基本的には女性しか履かず、そういう意味ではスカートは女性の記号といえる。
そんなことをぼんやり考えて、でも…と思う。
今は昔に比べてノージェンダーの理解も進んで多様化しているし、例えばランドセルの色が選べるようになったように、男性もスカートが選べるようになるのかな?その場合トイレのマークに困るかな?と近しい未来をつらつら予想する。
けど一方で、でも…と思う。
でも、何でも選択できるのは私達の脳を疲弊させてしまうかもと思う。選択すればするほど脳が疲れるから選択肢を減らすのも大切だと誰かが言っていたような…。
彼女はこういった意味のないことを「つらつら」考えるのが嫌いではなかった。…というか、考えてしまう性分だった。
やや強めの雨が降りしきる中、ビニール傘をさして傘に当たる雨音を少し心地よく感じながら駅に向かう道中、彼女はなぜだか地図記号の果樹園を思い浮かべる。
〇に縦棒をつけ足したりんごみたいな形の記号。
あの記号を見れば一発で果樹園という単語を想起する。
「確か桑畑ってあった気がするけど…というか桑畑ってなに?」
と1人でほくそ笑みながら、本屋行くのめんどくさいなーと思いつつ無事駅に到着し急行の電車に乗り、読みかけの岩波文庫「森の生活」上巻をいそいそと取り出し、その世界に没頭するのであった。
約4時間後。
彼女は緑に囲まれ、コーヒーの香りが漂う素敵な本屋で見つけた吉田篤弘・須賀敦子・オースターといった本日の整理本をバッグに忍ばせ、ほくほくしながら駅~自宅までの道を歩いていた。
そんな時に彼女はまたも「つらつら」考える。
「本のマークは図書館だから本屋の場合はどんなマークだっけ?」
あまり意味もないけど意味がなくはないであろう問いを抱えつつ、彼女は今日も帰路につく。
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