モロッコ④〜砂漠で迷子になりかけてヒーローに会う〜
バス到着と砂漠でひとりぼっち?
バスで眠っていると着いたらしい、メルズーガ。
隣のおじちゃんがわたしの右肩をトントンと叩き、
ジェスチャーで教えてくれている。
そうだ、おじちゃんもここの人だっけか。
そうおもって一緒にバスをおりるけれど真夜中におりたったのは
おじちゃんと私、数人の観光客らしき人たち、
そして最後に残ったバスの運転手くらいだった。
つまりここはこのバスの最終地点だったらしい。
外はバスの中よりも冷えている。
空気は透明でまっすぐで張り詰めている。
美しい空気だけれど肌を引き締めるような冷たさがある。
事前に予約をしてあるホステルからの迎えが
とっくに来ているはずなのに来ていない。
来ていたタクシーは他のホステルのもので
一緒に乗っていたバックパックを抱えた旅行客を乗せすべて去っていく。
どうしたものか…
真っ暗でどれがさっきのおじちゃんでバスの運転手はどの人か、
まったくわからないなかで人だけが少なくなっていく不安。
保育所の頃、仕事で迎えに来れない母を待ち、
最後ひとり、園に残されていたあの頃の感覚がよみがえる。
おじちゃんが砂漠のヒーロー
一人で不安そうな私に声をかけてくれたのは、
あのおじちゃんだった。
”お前、大丈夫なのか?”と言ってくれてる気がする。
”オケエ?オケエ?”みたいな風に聞こえた。
・・・全然オケエではないので、
”大丈夫じゃない、ホステルが迎えに来ない”
とにかく身振り手振りで伝える。
すると、そうかそうか、とうなづいたおじちゃんは
おもむろにポケットをガサゴソ、
ホステルの電話番号はわかるかと聞かれた。
必死に電波のない状況を覚悟して
スクショをした履歴をさかのぼる。
”あった。”
おじちゃんにみせるとすぐさま連絡をしてくれているみたい。
電話をしている間寒いだろうからと、
車内で貸してくれた毛布を差し出してくれる。
寒いのと、不安なので、心がざわざわしていたから
その優しさにすがり、甘える。
電話をかけているおじちゃんの反応がよくない。
なんでも電話に出ないようだ。
”どうしようもないけど、このままだと砂漠に到着早々、凍え死にそう・・・。”
悩んでくれていたおじちゃんがバスの運転手に話しかけにいった。
どうやらバスでホステルまで送るよう交渉してくれるらしい。
しかし当然バスの運転手の業務の範囲を超えている。
断られ、バスの運転手も明日の仕事があるからと各々去っていく。
本当に取り残されたおじちゃんと私。
頭を悩ませながらあたりを見回していると空が目に入った。
空が澄んでいて星ひとつひとつが全部見える、という表現があっているのかわからないけれど、とにかく明瞭に夜空だけは確認できる。
地元でもこんなには綺麗に見えないけれど。
なぜか安心した。
見えるものに安心したのか。
それとも、馴染みの夜空に安心したのか。
そんな安心感と諦めでここで一夜を過ごすことを
覚悟しておじちゃんに別れを告げようとした時、
”ブンブン、ザザザザー”
砂漠の砂埃を巻き上げるような車輪の音と、
古ぼけた車のエンジン音。
”タクシーだ”
おじちゃんも私をみてニコニコになって
おいおい、タクシーだぞ、ってとめにいく。
わたしも後を追いかけてそのタクシーをとめる。
業務を終えて家に帰るところだったらしいタクシー運転手は
事情を聞くと、”しかたがない”というような表情で
わたしを乗せてくれた。
安堵感、そしておじちゃんと別れなければならない孤独感で
頭の整理が追いつかないけれどタクシーの彼は急いでいるらしく、
その整理もないままに兎に角おじちゃんにお礼を言って乗り込んだ。
あのおじちゃん、いまはどうしてるかな・・・。
ホテルに着くと慌ててスタッフが出てきた。
どうやら寝ていたらしい。
ごめんごめんと謝り倒され
朝食を出される。
”これお詫びでサービスだから食べてね!”
豪華すぎる朝食を前にしても、
なんだか気持ちが落ち着かないので気持ちが乗らない。
疲れ切っていたわたしは誰もいないフロントのソファに
背中を預けて、うとうととしてしまった。
そうして、テーブルの上をそのままにして眠り込んでしまった。
続く・・・
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