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彼女が拗ねた徴
私の一日は、猫の飲み水を変えることから始まる。
そのとき、飲み水に猫のおもちゃが浸かっているときがある。
カレン(一歳になったばかりの雌猫)の仕業だ。
彼女は、遊んでほしい時に遊んでもらえなかったとき、そのような徴を残す。
最初は、床もおもちゃも水びたしになるし、飲み水にもゴミが入るしで、困った癖だなあと思っていたが、近頃はその癖がどうにも愛しくてたまらない。
「ふん、遊んでくれなかったからだよ」
だってそれは彼女が拗ねた徴。
「ごめんね」
眠っていて気が付かなかったことを謝って、ミルクティー色のふわふわの身体を撫でる。
自分が可愛いことをわかっているのだろう、彼女はころんころんと、小さな身体をくねらせる。
ひとしきり撫でたあと、水びたしのお気に入りのおもちゃから水分を拭きとって、ようやく遊びの時間。
彼女は黄色の目を輝かせて「待ってたあ!」と言わんばかりに、うれしそうに飛び跳ねる。
部屋の隅から隅へ走る私とおもちゃを、どこまでも、どこまでも、追いかける。
そうして三十分ほどすると、遊び疲れて、冷たいフローリングに横たわり、満足気に眠る。
ねえカレン、いつまでこうしておもちゃで遊んでくれる?
もうおもちゃなんかに見向きもしない大人の猫になった日に、私はきっと、彼女の拗ねた徴を思い出して、ほんの少し泣きそうになるのだろう。