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やついツーリストinスリランカ①プロローグ
昨年(2019年)の一月、私は毎日、一日の境目がわからなくなるくらい原稿と向き合っていた。(私の仕事は小説家だ。ちなみにその時書いていたのは「これは花子による花子の為の花物語」という小説だ。絶賛発売中である。)
変わらない姿勢で、変わらない部屋の景色を見つめながら、ふと、一人旅がしたいと思った。
日本ではない、遠い異国の地へ。
何も考えずに知らない風景を眺めて、感じたことのない新しい気持ちで、風を感じたり、のんびり過ごしたい。
いつか作家さんの旅エッセイで読んだそういう経験に、ずっと憧れていたのかもしれないし、ゲッターズ飯田さんの占い本「五星三心占い」に、銀のインディアンは、三月は「少しくらい無理だと思っても思い切って挑戦すれば、いい結果や素敵な人脈につながりそうです」と書かれていたからかもしれない。
私は決めた。
締め切りが終わったら、行こう。
この三年間、走り続けてきたご褒美に。
そう思い、飛び立ったのがスリランカだった。
まあ……結果的に、憧れていた一人旅ではなく、30人ほどの旅になったわけだが。
何を隠そう「やついツーリスト」に申し込んだのは、やついいちろうさんのファンだから、というのが一番の理由であるが、まあ要するに、一人で行く勇気がなかったからである。
そう、私は逃げたのだ。一人旅から。
嫌になるくらい、勇気がない。(いや、ある意味、一人旅に行くより、勇気があったのかもしれない……。)
というわけで、一人で風を感じるどころか、大の苦手である集団行動を余儀なくされる旅になったわけである。
果たして、執筆業ゆえに普段ほぼ猫と共に引きこもりである私は、普通に人間世界で生きているみなさまに馴染めるのだろうか。
ただ一つの安心点としては、参加者が、やついさんのガチ勢であることは間違いないということだ。
なにせ旅行代金は、約25万円。そんな大金をガチ勢以外が捻出するはずがない。きっと笑いのツボは間違いなく一緒だ。大丈夫。
いや……、不安だ。
なぜなら、私が申し込んだプランは相部屋なのである。(ちなみに参加者の大半が相部屋を申し込む)高い追加料金を払えば一人部屋にすることもできたが、「せっかく行くなら友達を作ったほうがいい。相部屋の人とは必ず仲良くなれる」と、申し込む際にやついさんからアドバイスをいただいた。
この時点では友達は求めていなかったが、コミュ症を改善したい気持ちもあり、やついさんから直接促されればもう相部屋にするしかない。もし最低な結果となったとしても、どんな経験も、いつか小説に活きるだろう。申し込んだ時点で、私は珍しく前向きだった。(果たしてそうなのか。)
しかし親友との旅行だって6泊はきついものがある。というか、6泊なんて妹としかしたことがない。妹とさえ旅の疲れで喧嘩になる日もある。だが別に普通に暮らしているときも喧嘩になるので、これは仲良しが過ぎる故だろう。もし相部屋の人が、たとえいい人であっても気の強い女子だったら終わりだ。内心私はそう思っていた。どうか優しい人を。願わくば、やさしくてきれいなお姉さんを。
楽しみ半分、不安な思いを抱えたまま、早朝・成田エクスプレスに乗り込み、旅は始まった。成田空港へ着き、予約していたポケットwifiを受け取ってから集合場所へ。やついさんはまだ来ていない。当たり前だが、見慣れない顔ぶれが集まっている。皆、常連なのか、すでに仲が良さそうだ。うまく説明できないが、オーラからして圧倒的なガチ感が漂っている。もう、この時点で、かなりアウェーである。集まってきた参加者を眺めながら、私は思った。
「友達作るの無理だ」
まるで一人だけ違う中学からやって来た高校の入学式のような気持ちだった。
初参加の人たちはおそらく皆、同じ心境だっただろう。私もエレキ好きとはいえ新参者。長年応援してきた歴史がにじみ出ているのだろう、エレキコミックという言葉を具現化したような、カラフルな服を纏った女子集団は、おそらくやついツーリストにおける、スクールカースト最上位的存在なのだろうと私は推測した。
私は協調性がなさすぎて、高校時代、なかなか友達ができなかったトラウマから、女子の集団がとにかく恐怖である。
だが一方で、別にいいやと思った。それならそれで一人旅気分でツアーに参加すればいい。なにせ本来の目的は、「海外へ一人旅」に行くことだったのだから。
私は開き直りながら、添乗員さんから行程表とeチケットを貰い、一人で優雅にうどんを食べに行き、一人で機内にチェックインした。
すると添乗員さんから電話がきた。
「チレンさん、飛行機乗っていますか?」
なるほど……、どうやら一人で搭乗してはいけなかったらしい。あとでやついさんのtwitterを見て気がつくが、出発前の集合写真を撮っていた。もちろん私は写っていない。やばい。初っ端から協調性のかけらもなさを発揮してしまった。反省だ。
(というより、はやくうどんを食べたい一心で話を聞いていなかった可能性がある。なぜか出国前は、空港でそば類を食べたくなるのはなぜだろう。身体がこれから、ダシが不足することをおそれているのかもしれない。)
一時間ほど飛行機は遅れ、ようやく十時間の空の旅へ出発。長いと思っていたが疲れていたのかほぼ寝ていた。
前日は東京で書店周りをしていたため、現実の洗礼に疲れていたらしい。私のような作家の新刊が、目立つ場所に置かれるには、地道な努力しかないのである。
そんな愚痴はさておいて、一人でチェックインした私は、やはりというか機内で一人きりだった。快適だ。一人ってなんて、快適なんだろう。隣は千葉からきたスリランカ人の家族だった(ややこしい)。
なにやら孤独な私に気を使ってくれたのか、話しかけてくれたので、少し会話をした。里帰りをするらしい。目が合うと、4歳くらいの娘さんがニコニコと微笑んでくれてかわいくて、モアナみたいだった。非常食に持ってきたミルキーを渡すと「ありがとう」と言って食べていた。
そして無事到着。飛行機を降りるなり、生暖かい空気が私を歓迎してくれる。と思いきや、豪雨だった。熱帯っていう感じがする気候だなと思う。
雨のせいと薄暗いので景色が見えず、本当に異国へ来たのか実感はわかないが、日本でないということは肌で感じた。それにしてもまだツアー参加者と誰とも話していない。ほんとうに一人旅へ来たような気分だ。
そして実は、あたかも前から行きたかったように書いたが、スリランカという国について、私は何も知らないまま、スリランカへたどり着いていた。
ツアーなので行程が決まっていたこともあり、また確定申告がギリギリまで終わらなかったため、何も調べもせずに来たせいだ。
(とりあえず「アーユルベーダ」という言葉だけは頭のなかにあったが、それが何かもあまりわかっていなかった。)
ここではじめて、一つの疑問点が湧き上がってくる。
私はなぜスリランカに来たのだろう?
何も知らない、正直別に行きたいとも思っていなかった国へ……。
なにせ私は本来、北欧家具や食器が可愛いフィンランドとか、大好きなハリーポッターの聖地であるロンドンへ行きたいと思っていたのだ。
けれど私はきっと、何かに導かれてこの国へ来たのだろう。
それを悟るのは帰る頃になるのだが−−この旅はまだ、プロローグが終わったところだ。
②に続く