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浮かぶ鯨(散文)

そこでは人びとの顔が並んだ彫像のようだった。こちらを向いて笑った男もいたが、目はわたしを見ていなかった。いつしか月光が灯り、その人たちは突然上着を脱ぎ、走り出した。駆け抜けていく淡い光の中で、その姿から、一群の狼のように、轟く足音がしたような気がした。何を追っているのか? 海面に浮かぶ白い鯨だ。それは、国連に顕彰されたのだ。男たちはそれを囲み、大声を出した。褒め称えているのではない。威嚇していた。浮かぶ鯨は、賢そうな小さな目を閉じて、黙っていた。先ほど笑った男が、小さな短刀を腰から取り出した。鯨は、そっと目を開いて男を見た。男は怯んだように見えた。「なに、怪物さ」。そう口にしたのが聞こえた(誰が?)。そして、鯨の首と思われるところを。月光は輝いていた。風は吹いていたかもしれないが覚えていない。冷たい海の温度がわたしの足に伝わってきた。死。いつかは生まれた存在は消えねばならない。しかし、浮かんだ鯨が消えることは、世界に対する大罪のような破滅を思わせた。男たちはふたたび、雄叫びを上げた。そしてーーーみなが、わたしを見た。わたしは、首を振る。短刀を持った男が、おそるおそる、近づいてきた。顔だけ向けて、こちらを見ずに笑っていた。

若い方にも大人の方にも、今日この瞬間にあなたの青春に参加させていただいたことに感謝いたします!!
また、次にお会いしましょうね!!

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