毒
2020年8月29日
知らない味がした。
私はレシピ通りに作っただけなのだけれど複雑な味。
ワインとお酢と水と、いつもの調味料は魔法になる。
煮詰めれば美味しいソース。舌に絡む美味しいソース。まとわりつく美味しさに舌鼓をうつように、頬が真っ逆さまに落ちてしまう。
瞳をつぶれば、私が作ったことを忘れてしまう。眼前に広がる、死後に見るような景色に胸躍らせる。船を渡る時に渡す六文銭は、この料理で代用しよう。餓鬼達も、きっと満足。二つ返事で川の向こう側へ。
アーモンドは隠し味。なにを隠すためかなんて、アーモンドだけが知っている。私は知らぬ振り。私はアーモンド。アーモンドみたいな瞳を持っているから。
誰かにつけられたあだ名、それを飲み込んでここにいる。大人になる度あだ名は恐ろしいものに姿を変えるけれど、私は未だにそれを抱きしめている。
だからアーモンドに隠したの。アーモンドの匂いのそれを。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?