ヘンゼルとグレーテル

2020年7月22日

歩いていたら、お菓子の家に辿り着く。
落としてきたパンはグレーテルが全部食べてしまった。
お菓子の家を食べようとして手を伸ばしてふと止める。
雨風に晒されて、地べたの上に建っているお菓子の家だ。本当に美味しいのか?
大概、こういった見た目を気にしている類の食べ物は強度が優先されていたりして、美味しくないものが多い。
私はグレーテルの手を引きながら家に近づいた。
家である、人工物であることは間違いがない。道を尋ねる位はできるだろう。
ノックしても返事がない。
と、するとドアをグレーテルが蹴破って中に入ってしまった。
グレーテルはクッキーで出来た椅子を貪り食っている。
うぇ、誰が座ったのかも分からない椅子を……
「食べたな?」
老婆の声がして、2人とも檻の中にとっ捕まったのは本当にそのすぐ後だったんだ。
冷たい牢に閉じ込められて、じっとする。
牢は鉄製だった。どうやら全てがお菓子でできているわけではないようだ。
しばらくして老婆がご馳走を持ってやってきた。老婆…というか魔女だな。見た目からしてこんなに怪しいステレオタイプの魔女も珍しい。
食べて肥え太れと言うことだ。どう考えても家畜に対しての餌のやり方。多分私の事食べる気だなぁ。
ご馳走は魔法で出たものか?手作りか?手作りならゴメンだな、あんまりこの魔女料理得意そうじゃないし。
魔女はそのままグレーテルを連れて行ってしまった。
家事などろくに出来ないグレーテルを連れて行ってどうするつもりなのか。
そうして何日もたった。魔女は毎日私の手の太さを確認してきたが、目が悪いのか、頭が悪いのか、ずっと手が細いのを気にも止めていないらしい。
なんとなくこの生活にも慣れてきた。ご馳走は程よく食べて飢えることはない。働くこともせず、日がな一日眠るだけ。グレーテルは大変そうだけど、なんだかんだで家にいる時より仕事は楽しそうだ。血縁では無い人の元で働くのも楽しい経験なのだろう。
だがある日、牢獄の中で胡座をかいて眠っている時、グレーテルが慌ててかけてきた。
「お兄ちゃん、カギ取ってきたよ!そろそろ外に行こうよ」
「でも、魔女は?」
「オーブンで焼いた!」
どうやらグレーテルは、オーブンに魔女を押し込んで焼いてしまったらしい。
とんでもないな。人一人殺すにもそんな方法をとる妹にちょっと引いてしまった。
流石にいびられて嫌になったのか。グレーテルは限界が来ていたらしい。
まぁ、嫌な人をオーブンで焼きたい気持ちはよく分かる。
よっこらと重たい腰をあげて外へと出た。
オーブンからは、可愛いお菓子の家には似つかわしくないタンパク質の匂い。
魔女って本当に燃えるんだ。
なんとなくそんなことを思いながら、お菓子の家を後にした。

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