マンションの孤城

閉鎖されたこの部屋で、私は一人。
たまにくる宅急便を迎え入れるくらいしかわたしにはすることが無い。
眼下には街が、子供の声や車の音が絶えず聞こえて来ると言うのに、私は孤城に幽閉されているようなそんな気分になっていた。
まるで、悲劇のプリンセスだな……
迎えに来てくれるアテはないけれど。

窓を開けると熱気が部屋になだれ込んでくる。
嫌になる夏特有の、重たくまとわりつくような暑さ。
それでも街の人間は活動を止めない。
絶えず動き続けている。
子供たちは遊んでいる。親はのうのうと話し込んでいる。目を離して話し込んでいる。
ひとり、転んだ子供は歯を食いしばって泣き声一つあげない。強いな。
周りの子は気がついていない。親も気がついていない。誰もその子の事を見ていなかった。
頬杖をついた。その子がどうするのだろうかと見ていると、今まで通り遊び始める。
子供たちは通り過ぎていく。親の号令に合わせて。
あの子の傷が癒えるのはいつなのだろうか。

小さな騒ぎ声が聞こえる。
女が男の手を振り払っていた。
あぁ、羨ましいな。私は声かけられる事なんて無いから。迷惑だろうと私に無い経験を女はしている。羨ましいと少し思ってしまう。
向こうからしたら虐げられている私の方が羨ましいだろうか。
途端に男が手を離して走り去ってしまう。
周りの視線に耐えかねでもしたのだろうか。そんな軟弱な奴が人に声をかけるな。
迷惑そうな顔をした女に妙齢の女が声をかけている。
ああいう偽善者が一番面倒だな。
女は皆仲間とでもいうように、一つの枠で括り、さも気持ちが分かるというふうに話すだろう。
分かるわけがない。人間はそのカテゴリーや種類に関係なく孤独なのだから。

あぁ、私は孤独なお姫様。
迎えの来ないラプンツェル。
髪を解いて三つ編みにしていく。
それでも私はラプンツェルになれない。
まだ見ぬ王子よ、迎えに来て……


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