人生に必要な本は、たぶんたった1冊だけです。
年齢を重ねるにつれて、明らかに読書のペースが遅くなった。
読みたい本はいっぱいあるのに、なかなか読み進められない。
ただ忙しくて時間がないというだけでなく、読み始めても集中力が続かない。
10代のころ、夜中に読み始めた長編小説に没頭するあまり、寝ることも忘れて読み終えたと同時に朝日が昇っていた、なんていうこともザラだった。
今は徹夜どころか、2時間ぶっ通しで読み続けることも難しい。
だからどうしても、読める本の数が少なくなっていく。
読書好きにとって、これは悲しい。
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でも一方で、こんな変化もある。
昔は気づかなかった、本の中の真実に気づけるようになった、ということ。
たとえばわたしは子供のころからサン・テグジュペリの『星の王子さま』が好きだけれど、小さいころ感情移入していたのは王子さまのほうだった。
だけど今では、主人公の飛行機乗りや、作中にたくさん出てくる「へんてこな大人たち」のほうに感情移入してしまう。
大人ってものがわからずやで、滑稽で、それでも彼らなりに必死に生きているという事実の方になんだか感じ入ってしまうのだ。
子どものころの感性を失ってしまったことは寂しいけれど、子どもではなくなった自分だからこそ見える真実もある。
同じ物語のなかにも、読む年齢や状況によって異なる見方や真実が存在するというのは面白い。
その気づきは、たくさんの本を読むことではなく、一冊の本を繰り返し読むことでしか得られない。
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思うに、本をたくさん読むということはそこまで重要なことではない。
本を短時間で読み通すということも、さほど重要ではない。
肝心なのはきっと、自分にとって大切な本を逃さないことだ。
そして、「生涯を通して読みたい本」を見つけることだ。
自分にとって本当に大切なことは、きっと人生を通じてそう簡単には変わらない。
本棚にたくさん本を詰め込む必要などない。
たった1冊だけでいい。
人生に迷ったときに立ち返る、方位磁石のような本。
大事なのは、その1冊が見つかるかどうかだと思う。
(「次世代の教科書」編集長 松田)