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小説「読書会の彼女」

Zoomの画面が切り替わる。
画面にさきほど一位に指名したはるかが映る。
青天の霹靂とはこのことだった。
舞い上がる気持ちを無理やり抑えて言葉をかける。

「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます」

はるかは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
柔らかな雰囲気。
やっぱり可愛いと思う。
僕は見惚れている場合ではないと思い直し、
言葉をつなぐ。
「今日の読書会、どうでした?」
「初めてだったんですけど、楽しかったです。たかしさんはどうですか?」
「僕も初めてなんですけど楽しかったです。しかもマッチできると思ってなかったですし」
「えーそうなんですか?」とはるかは楽しそうに笑う。

僕はスマホを取り出した。
「連絡先いいですか?」
「はい、どうしたらいいんやろ。わたしLINEのQRコード出しますね」

はるかはスマホの画面をパソコンのカメラに向ける。
僕はZoom越しにQRコードを読み取ろうとする。
「いや、なんか読み取れないですね」
「ですよね」
はるかはまた無邪気に笑う。

た、楽しい。なんだこれは。
これは学生時代に憧れていた女子との戯れというやつではないか。
一部の男子と女子たちが楽しそうに話すのを見て見ぬふりしていたあの頃に置いてきてしまった何かを少し取り戻せた気がした。

結局、LINEのQRは諦め、idを伝えて無事に連絡先を交換することができた。
Zoomに映る笑顔のはるかにこちらも精一杯の素敵な笑顔で手を振る。

Zoomは閉じられて、1ルームの極狭物件の一室に再び静けさが戻る。
パソコンを閉じながら息をふぅーとはき、天井を見上げる。
自らの歓喜に呼応するように心臓の鼓動が激しい。

こんな奇跡がおこるなんて。喜びを噛みしめる。
マッチングアプリでの連戦連敗によって途方に暮れたときに見つけたマッチング読書会。
まさか1位指名した子とマッチングできるなんて。ビギナーズラックは本当にあるらしい。
まだこの世は見捨てたものではないかもしれない。

続く

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