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加賀友禅・第一回 / 本流を受け継ぐ友禅作家

金沢駅から旧市街に入る。
『加賀友禅灯篭ながし』で知られる浅野川を超え、江戸の街並みが残るひがし茶屋街を抜けた高台に、友禅の祖・宮崎友禅斎の墓石のある龍國寺は佇んでいる。

以前は友禅流しがされていた浅野川

ひがし茶屋街

宮崎友禅斎の墓石のある龍國寺の鳥居

京都の扇絵師として人気を博した宮崎友禅斎は、晩年を加賀藩御用達の紺屋棟取「太郎田屋」にて過ごし、今に伝わる友禅染を完成させたといわれている。

宮崎友禅斎のものと言われる墓石


友禅染の聖地、金沢で生まれ、今日まで発展してきた「加賀友禅」。
今回と次回では、日本の三大友禅の一つである加賀友禅を切り口に、二人の作家のストーリーを伝えていきたいと思う。


本流を受け継ぐ友禅作家・本間哲哉

~まえがき~

「太郎田屋」において三代に渡り家督を勤めた鶴見他吉郎(1858~1934)を祖父に持つ
加賀友禅作家、鶴見保次氏。
鶴見氏は石川県文化功労者にも選ばれた、昭和・平成の時代に加賀友禅の発展に大きな影響を与えた加賀友禅作家の重鎮である。
そんな鶴見氏の下での修業を経て、独立した作家の一人が本間哲哉氏である。
言わば加賀友禅の本流を今に受け継ぐ気鋭の作家だ。

~加賀友禅の世界へ入るきっかけ~

「幼いころから絵を描くのが好きでしたので、将来は絵を描く仕事につけたらいいなと思っていました。
この仕事に就いたきっかけは、短大生の夏休みに鶴見保次先生の工房にいた友人から工房体験に誘われたことです。鶴見先生の下で染織の体験をした後、『卒業したらうちの工房にこい』と話を貰いました。進路に悩んでいたころだったので嬉しかったですね。」

「私は鶴見先生の下で10年間の修業をしました。
10年と聞くと、長いと感じる方もいるでしょうけれど、
先生のもとで色挿しをしているだけでも楽しくて十分だったものですから、もう独立しないといけないの!?と不安に思いました。
その当時はバブルが弾けた後の世の中で、加賀友禅の業界もその影響を受け、徐々に仕事が減っていく中でしたので不安しかありませんでした。
それでもやってみないとわからんとおもって、その時30歳で独立しました。」

~伝統の中に活かす個性~


加賀友禅の歴史は今から約500年前に遡る。
言い伝えによると「梅染」という無地の染めものから始まったとされている。
その後、加賀の国で栄えた庶民文化と豪商・大名文化の中で育まれた美的感性により、技法や色・柄に新しい変化を生みながら、今へと受け継がれてきた。

本間氏の手がける作品は古典題材のものが多くを占めるが、
その理由には氏の仕事への姿勢が色濃く映し出されている。

「初めのころは加賀友禅でも新しいものにチャレンジしたりしましたが、実際に販売となると中々難しい世の中でした。
実際にお召しになられるお客様が必要としているものを追求していった末に古典に行きつきました。

加賀友禅に用いられる古典の柄は、完成されています。

古典はとても奥が深く、歴史が築いてきた品格や格調が存在します。

ただし、完成されているからといって、ただ緻密に古典をなぞらえるのではなく、古典を踏み外さないように自分の個性を入れていくことも大切にしています。」


伝統的なやり方の中に個性を入れていくこととはどういったことなのだろうか…
その疑問をぶつけてみた。

「加賀友禅には加賀五彩といわれる代表的な色使いがあります。
『臙脂・藍・黄土・草・古代紫』を基調としたものなのですが、職人によって
この五彩の出し方が違います。
例えば藍でも沢山の藍があります。」

藍の色見本をみせてくれた。

「一言で藍色といっても様々な藍色があります。
色のトーンだけで柄に奥行を持たせたりと、様々な印象を柄に与えることが出来ますので、色を塗るだけでもとても奥深く面白い。」

古典の中に微妙な変化を付けていく。
その繊細な技によって、本間氏にしか出せない感性を作品に宿らせるのだ。

本間氏は芸術家というよりは職人としてものづくりをしている友禅作家だ。
あるエピソードが、その職人としてのものづくりの矜持を物語っている。

「たまに問屋さんから追加の注文を貰うことがあります。
先方は全く同じものの注文をされるのですが、これが私としてはとても辛い。
私は常に一回目よりも二回目のほうが上手にならないといけない意識でものづくりをしています。昔の自分のコピーは形骸的になるのです。」

本間氏はこう語る。

「加賀友禅はこの土地が生んで、育んできた着物のための技法です。
ですから基本は着物にあります。芸術作品である以前に、人に使われてこそ活きる『モノ』です。この文化を枯らしてはダメなんです。」

~あとがき~

加賀友禅の作家は全盛期には300人以上が活躍していた。
現在その数はその半分を切っている。
そんな時代の中でも、きもの文化と加賀友禅を愛し、繊細な感性と受け継がれた技によって類稀な作品を生み出し続ける職人、本間哲哉氏。
氏は加賀友禅を次世代に継いでいく希望の星だ。

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