2020年に読んで面白かった小説ベスト10
毎年恒例、1年間に読んだ作品のベスト10。2020年の読書量は44冊でした。例年よりも冊数が少ないのは、やはりコロナによるリモートワーク増加で電車での読書時間が大幅に減ってしまった影響ですね。これからは意識して時間を作らないと。
過去のベスト10・最新のベスト10
第10位 「スタフ」 道尾秀介
まず。「移動デリ」とは食品の調理・加工をする自動車のことで「ランチワゴン」とか「キッチンカー」のこと。ここ間違えないように。
ごく普通の人が誘拐されることで展開していくストーリーながら、頭脳戦とも肉弾戦とも違う、緊張感はあるけれどなんと言うか華がないまま進んでいくなと思わせておいての最後のネタバラシが意外すぎて。
そして何より描写が良かった。主人公が行動を起こした後に自らの心理に気づくシーンがすごく良かった。
タイトル「スタフ」の意味は、読み終わってから調べましょう。
第9位 「青くて痛くて脆い」 住野よる
行動力あふれる不思議ちゃんと二人で作ったサークル(?)が、いつの間にか乗っ取られ追い出されていて、相方ももう居ない。諦めかけていたけれど一念発起。どうにかして取り戻そう。
主人公は取り戻すことに必死だけれど、読んでいるこちらは居ない不思議ちゃんのことが気になって気になって。大学を舞台にしたミステリーの雰囲気が漂うけれど、最後の畳みかけを読めば納得。紛れもなく青春小説だった。
青いなぁ。痛いなぁ。脆いなぁ。このタイトルを付けるセンスが好き。
第8位 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ
高校生の主人公には父親が3人。母親が2人いる。これはさぞかし不幸な生い立ちだろうと思いきや、書き出しは「困った。全然不幸ではないのだ。」
血の繋がりがあろうがなかろうが、5人の親全員が充分な愛情をもって、それぞれのスタンスで接している。決して押しつけがましくなく、無理をせず。一般家庭のそれと何ら変わらないからこそ感動ポルノにもご都合主義にもならない。作中でもごく普通の家庭として、あぁそんなこともあるよね。いい家族だね。という雰囲気に包まれる。そう、ごく普通。父親と母親1人ずつが普通だとすれば、普通の2.5倍多い、親が5人いる主人公が、その2.5倍の色々なものを普通に醸し出す最後のシーンは、普通の2.5倍暖かかった。
第7位 「時限感染」 岩木一麻
マトリョーシカと呼ばれる生物兵器を用いたバイオテロ。ウィルス、細菌、DNAなどの単語が飛び交い、その性質をふんだんに利用した兵器であるために専門的な会話も多く、全てをキチンと理解しようとするとちょっと大変だが、充分にわかりやすくなっているし、仮に理解しなくてもこの物語の面白さには何も影響なし。
パニック小説に分類されるのだろうか。だがそれほどパニックは起きないまま進み、最後に潜むとんでもなく大きな爆弾で衝撃を受ける。
この着想と展開は、現役医師である著者ならでは。主人公の変人っぷりも良い味を出してて良き。
第6位 「リメンバー」 五十嵐貴久
待ちに待った「リカ」シリーズの第五段。一作目「リカ」で、その特異な最恐ストーカー「リカ」の衝撃を受けつつも、ようやく決着を迎えたかに見えた二作目「リターン」。外伝的な「リバース」「リハーサル」を経て、正統な続編が本作「リメンバー」
リカって(リターンで)完結したんだよね。もう全部ちゃんと終わったんだよねと自らに言い聞かせながらも読み進めるほどに出てくるリカの影に再び引き込まれながら、決して焼き直しではなく、その伏線回収っぷりに驚愕。あぁ怖い。
第5位 「許されようとは思いません」 芦沢央
コンスタントに執筆されていて、そのどれもが高水準。読みやすいし心の闇や信念の描き方も好きだしストーリー・展開の捻りも見事で、ハズレ無しの、注目というか信頼している作家さん。長編も短編も多く、この作品は短編集。「目撃者はいなかった」「ありがとう、ばあば」「絵の中の男」「姉のように」「許されようとは思いません」の5編。
読み進めるうちに予想を超えてどんどん闇落ちしてく「姉のように」。「ありがとう、ばあば」「許されようとは思いません」の、最後に畳みかける、ゾワゾワっとした感覚。あまり長編小説に慣れていない人でもこれなら読めそうだし、これをキッカケにミステリー小説にハマってくれそう。
世にも奇妙な物語で映像化されても面白いんじゃなかろうか。
第4位 「少女葬」 櫛木理宇
これまたレベルの高い作品を連発する作家さん。
「壮絶なリンチの果てに殺害」な冒頭から、どれだけバイオレンスな内容なんだろうと思っていたらとんでもない。貧困に喘ぐ子供達のそれぞれの運命を描いていく。
貧困に至った過程はそれぞれ違っていたとしても、陥った境遇は同じ。そして同じ境遇でもちょっとしたきっかけで運命が変わっていく二人。近くに位置し、時には交わりながら、次第に平行して進む二人の運命に、残酷かもしれないけれどどうか交わりませんようにと祈りながらページをめくる。
本人の努力とか能力とかそういうものではなく、たまたま知り合った大人の及ぼす影響がすごく大きいことを思い知らされる。
第3位 「希望が死んだ夜に」 天祢涼
奇しくも、4位の少女葬と同様に貧困に関わる作品が並んでしまったが、本作はミステリー要素が強め。最初の数ページから物語に引き込まれどんどんのめり込んでしまった。徐々に明らかになる真実と後半一気に加速する展開に心を抉られる。
同級生殺害容疑で逮捕された、経済的に余裕のない家庭に暮らす14歳の女の子と、三階建ての大きな家に住みフルートをやっている被害者の同級生。挨拶くらいはするだろうが、仲が良いこともなく逆に悪くなるほどの関係もなかった。動機どころか接点もない。
子供にも世界と社会があって、それに寄り添う大人も向かい合う大人も関わらない大人もいるけれど、大人が大人の目線と思い込みと美化した経験則で接している限り、子供には伝わらないし心も開いてくれない。「あんたたちにはわかんない。なにがわかんないのかも、わかんない」
どんな過酷な状況でも努力すれば道は開けるというが、果たして。
第2位 「あの日、君は何をした」 まさきとしか
連続殺人の容疑者が警察署から脱走。深夜、家を抜け出した中学三年生の大樹が職務質問されそうになって自転車で逃走し事故死した第一部。第二部はその十五年後の殺人事件。話題には出るものの関連性が全然わからない第一部の事故がどう交わるかと思いきや、とんでもない角度で絡み合ってくる。
不自然なまでに無関心な重要参考人の妻と、肝心の重要参考人が失踪しているがためになかなか進まない捜査がが故にストーリー展開はゆっくりだけれど、暴走する母親が良いアクセントになってどんどん読んでしまう。そして最後に判明する真実が、まさか一部と二部がそんな角度で交わっていたのかと。
ここまででも充分に面白い小説だが真骨頂はここから。最後の7ページの衝撃たるや、もう。
第1位 「ホワイトラビット」 伊坂幸太郎
拳銃を持った男、押し入った家の母親と息子、そして父親らしき人。拳銃男が探していた男はこの家には見当たらなかった。取り囲む警察。迫るタイムリミット。
登場人物のキャラが絶妙に濃く、シリアスなのにどことなくコメディ感が溢れるのは、作中でも執拗に触れられているレ・ミゼラブルのように作者が出てきて説明したり場面転換をしているからか。きっと他にもいろんなオマージュが散りばめられているのだろう。(未読のため判別つかず)
さぁこの喜劇はどんな結末を迎えるのだろうとのんびり構えていたところに現れた1枚の紙切れで全てがひっくり返る。理解が追いつかないが、ページをめくる手も止まらない。まさに伊坂マジック。
最後に
思いっきり外出することも憚られるこのご時世、小説は場所を問わずに気分転換・現実逃避ができるコンテンツです。小説、面白いよ!
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