『マザー・スノー』優希というヒト①
田村 優希
特に優しくもなく、未来に希望を持たない女。
家が貧しく進学することが出来ず、就職氷河期真っ只中の時代だった為、定職につけなかった22歳のフリーター。
ドラッグストアで勤務しており、社員に昇格することを願ってバリバリ働く訳でもない。
しかしそんな彼女も、最初の頃は正社員昇格を狙ってガムシャラだった。
しかし、今は接客業に有りがちな理不尽さに疲弊していたのだった。
彼女はただ、日々を無力感の中生きていた。
そして頭の中で常日頃、職場で受けた理不尽な仕打ちに対して、罵詈雑言呟いていたのだ。
(あ〜、さっきの客の態度にまだイライラするわ。一体貴様は何様案件?
いやしかし、友だちとか会社や学校の人とか、自分に関わりのある人間には普通に接することが出来ても、店員のことは同じ人間やと思っていない客も結構居るんよな…。
トイレットペーパーひとつ買いに来ただけで、王族扱いでもしてもらおうとするかのような、あの横柄な振る舞い…。
本物のロイヤルファミリーはシモジモの民に優しいんやで、このボケナス。
たかだか数百円で、ダイアナ妃にでもなったつもりか。
お前ダイアナ妃っていうツラじゃ全然ないやろ。
どっちかって言うと「アナ開きダイコン」の方やろが。
だったらせめて、こんな再生紙のトイレットペーパーじゃなくて、高級和紙でお前のケツでも拭いて痔にでもなっとけや。
ついでに痔の薬の方がトイレットペーパーより高いから、うちの売り上げになるってなもんやわ!!)
・・・全くと言って良いほど、優希の内面は名前負けであり、見事に荒れ腐っていた・・・。
というのも先程店を出た客が、携帯電話で通話しながらレジに来るや否や、レジカウンターにトイレットペーパーを放り投げるように置き、お金も金銭トレーに投げ入れ、受け取ったレシートを手で握り潰してその辺に捨てたのだ。
優希の内面が荒れ腐るのも無理はない。