サーチファンド#08:私の経験(4/4) -ヨギーとの出会い、投資実行、経営
谷家さんとの出会い
投資家まわりと案件探しを並行して行っていた2014年夏、谷家衛氏にサーチファンドの提案に伺った。
谷家さんは、投資家として著名なだけでなく様々な社会活動の仕掛人としても活躍している。彼が手掛けた有名な活動としては、ライフネット生命、お金のデザイン(ロボアドバイザー THEO)、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)、HumanRightsWatch、CampFireなど多岐にわたる。
以前から谷家さんと面識はあり、折に触れて情報交換や考えているチャレンジについて相談する機会を頂いていた。一緒に仕事をする機会はなかったが、毎回丁寧なアドバイスを頂いたり、逆に谷家さんの考えているチャレンジのご提案を頂いたりしていた。
そんな関係が続いていた谷家さんに、サーチファンド活動の全般的な相談に伺ったところ、サーチファンドのコンセプトへの共感とともに、彼がオーナーであった株式会社ヨギー(旧 株式会社ロハスインターナショナル)を、サーチファンドの投資先案件として提案していただいた。
ヨギーについて
ヨギーは2004年の創業に近いときから、谷家さんがオーナーとして支援している企業の一つである。東洋的な価値観が見直される時代が来る、とヨガに可能性を感じ、まだ日本で浸透していなかったヨガスタジオを始めるヨギーの成長を全面的に支援されてきた。
その後、ヨギーはヨガ業界では大手の一角にまで成長し、クオリティの面でも評判の高いブランドを築き上げてきた一方で、業績という意味で課題がないわけではなかった。だが中小企業なので、経験豊富なコンサルタントや実績のある経営者を雇うのもいろんな意味で難しい。
そのようなタイミングで、サーチファンドのコンセプトを説明したところ、「伊藤君のファンドでヨギーをより良くしてくれるなら、やってみる?」と、お互いのニーズがマッチするご提案をいただいたのだ。
また谷家さんには、ファンドの投資家側の観点でも多大なご協力を頂いた。他の関係者との接点づくりや条件の調整、また投資家としての出資など全面的なサポートを頂いた。
デューディリジェンスと投資実行
さてヨギーの買収を提案されたとはいえ、デューディリジェンス(DD)をしないと投資判断はできない。
ビジネス、会計、法務などそれぞれの面で検討したが、この規模の投資だと専門家にフルDDをお願いする費用は無い。したがって、どうしても怖いポイントに絞ってリスクの有無を、できる範囲で確認した。このあたり、ポイントの見極めについてはPEファンドでの経験が役に立ったかもしれない。結果論だが、検討したポイントはおおむね的を射ていたと思う。
DDの結果を踏まえ、投資家側への提案を行い、投資条件や買収金額に合意し、無事ファンドによる投資が2014年末に実現する。サーチファンド活動を開始してから、9カ月くらい経っていたと記憶している。
(追記:※別の回にも書いたが、サーチファンドの立ち上げを目指して活動してきたものの、結局実現したこの投資形態はいわゆるサーチファンドではない。中小企業をM&Aしオーナー経営者になるという意味では当初の目的は実現できたが、サーチフィーを頂いて・・という純粋なサーチファンドの立ち上げは実現できなかった。
実現できなかった事実も含め、今後サーチファンドを目指す人の参考になればと思い、私の経験をそのまま記載している。
今後、純粋なサーチファンドが浸透するのか、私の結果も含め別の形での個人M&Aが浸透するのかは、次回私なりの考察をまとめてみたいと思う)
投資後の経営
すみません。。ヨギー経営中の具体的な話を公開するのは控えさせて頂きます。
達成した成果を美談として語ることもできるし、うまくいかなかった話をHARD THINGSとして語ることもできる。ただ、良い話であっても苦労した話であっても、会社を特定できる形で内情、特に書く意味のあるほどの深い話を公開することは、必ずしも社員や関係者のためにならないと思う。私の視点での解釈で不快に思う人もいるかもしれない。
どんな企業においても、外野から見える以上に中の人はいろいろな思いや事情を抱えて日々の事業を営んでいる。それを退任した元トップが、誤解を招きやすいweb上で一方的に内情を公開するのは控えさせていただく。
気になる人は、よくある中小企業の苦労話、成功例を想像してもらえればよい。当たらずとも遠からずだと思う。
(もし、DDや経営についての詳しい話が役に立つのであれば、誤解なく丁寧なコミュニケーションができる場でお話させていただきます。ご連絡はいつでもウェルカムです。)
エグジット
もともと、ヨギーへの投資は長期投資だと考えていた。短期的に数字だけ整えてエグジット(売却)するつもりはなく、長期的なポテンシャルのある会社だし、そこを目指すつもりであると関係者にも説明していた。しかし、しばらくして結果が数字に表れはじめるとエグジットの話が内外から出始める。全く理不尽ではなく理解できるが、個人的にはもっと伸びる確信もあり、引き続きコミットしたいという思いもあった。
そこで、谷家さんと私とでファンドからヨギーの株を買い戻すことにした。いわゆるMBOである。ファンドとしてはエグジットが実現でき、長期コミットしたい私と谷家さんは(リスクをとって)直接オーナーシップをもつという形で、一旦サーチファンドとしては活動が終了することになる。
その後も引き続き経営をリードしたが、最初の参画から4年が経過し、私が考えていた戦略や考え方もおそらく理解され、将来への種まきもある程度できてきた段階で、ここから先はプロパーのリーダーが率いる方が良いと判断し経営からは退くことにした。
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※ここに記載した以上の経営の内容、投資条件、オーナーシップなどについてはwebやSNS上ではお答えいたしませんので、ご了承ください。
補足:ヨギー経営中の別案件への投資活動について
ヨギーの経営中に、別の投資案件のご紹介を頂くことも多数あった。その中で一件マイノリティ投資をした会社があるのだが、やはりこのサーチファンドモデルでは、一人でコミットできる会社の数は基本的に一社、多くて二社が限界だと思う。二社目の投資はハンズオフにならざるを得なかった。
そのような状況とMBOのタイミングが重なり、ファンドとしての投資活動は一旦ストップし、ヨギーの経営に名実ともに専念することにした。
投資家として複数の案件をとりにいくのか、経営者として一社にコミットするのか。私は後者をとったしサーチファンドの醍醐味や価値の源泉は経営までコミットすることだと思うが、これは意思の問題であり正解は無いと思う。
経営者としてフルコミットすることに疑問を感じるのであれば、ハンズオフの投資を目指すか、そこまでコミットしたいと思わせる企業を見つけるか、どちらかだろう。
私は運よく、コミットしたいと思えるヨギーに出会えただけかもしれない。
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サーチファンドに関する他のnoteはこちら
01:個人が中小企業をM&Aする新しいアントレプレナーシップのかたち
02:サーチファンドのはじまりと成功事例
03:データでみるサーチファンドの広がり、実績、リターン
04:サーチファンドに必要なバックグラウンド、スキル
05:私の経験(1/4) -きっかけ、投資家まわり
06:私の経験(2/4) -投資対象企業探し
07:私の経験(3/4) -ファンド設立・運用の実務と意味
09:日本でのサーチファンド浸透のために
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