言葉にはタイミングも重要
言葉が及ぼす効果に影響を与えるタイミングの重要性についてのエピソード。
何年もの間、ある本の編集者が、著名なセラピストのクリスに本を書くように説得をしていた。
「クリス、いつになったら言葉に関する本を書くの?」。
彼女の答えはいつも、
「そうしたいんだけど私には書けないのよ」。
これまで、本を書こうと思って机の前に座るが、いつもただ座っているだけでまったく書けない状況になってしまうらしい。
まるでドラマのワンシーンのように書いては破り書いては破り…
クリスは、友達にこのことを話すと、
「セラピストのあなたでもそんなことを言うのね?」
と笑われるのである。その友達は、
「だって、私、あなたのセラピーの関するマニュアルは全部持ってるのよ。あなたはマニュアルはこれだけ書いてるのに」
という言うと、クリスは、
「ああ、アレね・・・」。
「ん?“アレ”ってどういう意味?"アレ"だってあなたが書いていることには変わりがないでしょ」。
「そうね。でも、そう思ったことがなかったわ。」
と答えた。というのは、クリスは、友達と話すまで非常に狭いフレームでしか、本を書く、ということを考えられていなかったのである。
「だって、これはマニュアルであって本じゃないのよ。本は書くものであって、マニュアルは用意するものなんだって、みんなそう思ってもるわ。」
つまり、友達からしたらクリスは「書いている」ことをしているのだけれど、クリスの意識の中では「用意する」ことをしているのである。
さらに、その友達はこう質問した。
「クリス、もしあなたが本を、書いている、のだとしたら、どんなふうにやっているの?」
と。その友達は、そのように考えてみるように、クリスを「招待」したのである。
クリスは、友達にそう言われてから、たとえば、自分が書いたマニュアルをひとつにまとめる、ということを思い浮かべてみた。
そして、友達の言う「書く」という言葉と関連付けるようにした。
これは、友達が、別のものの見方をする、という可能性をクリスに示し、招待してくれたわけである。
このことによってクリスは、他にも実際に「わたしには書いた経験がある」のだと思い出すことができた、ということなのだ。
このエピソードのポイントは、クリスがその信念/観念を持っていた間は座って何かを書こうと思うたびに書けなかったということである。
だから、
「ほら、やっぱり私は書けない」
と思いこんでいた。しかし、最終的には、
「いや待てよ、私はこのことを人に教えているんだから、自分自身でもやらなければいけないのだ」
と考え直すことができたわけではあるが。
ある人が、自分の内面との会話や、人との会話の中でも「できない」(can not)と言った途端に、前に進むという方向の動きがすべて止まってしまうのである。
つまり、自分には「できない」のだということを立証しようとしはじめる。
もちろん、それは意識的にやっているのではない。それとは別のレベルで、その振る舞いを形成しているのである。
実は、このエピソードの前に、クリスは「呪師になる一イクストランへの旅」のなかでドンファンが提案したことをエクササイズだと思って初めてやっていたのだという。
それが何かといえば、クリスは、八日間、自分自身にずっと「できない」と言い続けてきたことを言ってみた。
たとえば、私は書くことができない、これができない、あれができない…。
そして、次の八日間は、まったく逆のことを自分に言い続けた。
先ほどの友達がクリスに会いに来たのは、そのすぐ後のことだったという。
その友達はクリスの家に遊びに来て、ときどきご飯を一緒に食べるのだが、エクササイズを終えていたことで、友達が先ほどのような言葉を言ったときに、クリスはそれに聞く耳を持てた、という裏話も。
ともあれ、タイミングがすべてであり、タイミングが違いをつくるのである。
◆参考文献:クリスティーナ・ホール博士の言葉を変えると、人生が変わる NLPの言葉の使い方 2009 ~信念/観念と現実 より
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