オリンパスのm4/3に別れを告げたわけ
【自分史の切片としてのカメラ機材 #7】
オリンパスのカメラとのつき合いは、父が買ったオリンパスペンFTから始まる(#1)。独創的なデザインとアイデアのある構造。ペンタプリズムではなく、横向きのミラーでファインダーまで光を導き、それで一眼レフを成立させている。そんなカメラはペンFTだけだろう。ガラスのプリズムがないだけ軽量になる。普及型の一眼レフにもプリズムでなくミラーを使っている機種がある。それはコストと価格を抑えるのが目的だ。ペンFTの設計にもコストや重量は意識されたのだろうが、それらとは次元の異なる発想があったと推測する。構造からあのデザインが生まれたのか、デザインが先に決まって、あのような構造にしたのか。使い勝手も使い心地も悪くない。ユージン・スミスが使っている写真も残されている。いまでもときどき使いたくなるカメラだ。
そのオリンパス社とは一時期、仕事上でのつきあいがあって何人かの社員の方々と親しくしていただいた。現在のオリンパスは内視鏡の世界的トップメーカーだ。いまでこそグラスファイバーを使っているが、初めは胃の中にフィルムカメラを挿入するというものだった(参考:吉村昭著「光る壁画」)。だからいまも「胃カメラ」と呼ばれたりする。そのメディカル部門にいる社員にもカメラ好きが多い。カメラが好きで入社した人が少なくないようだ。
どこの会社にも言えることだが、一人ひとりの社員はみな善良で仕事熱心。しかし、マネジメントにはいろいろな問題が生じる。中でもオリンパスが起こした粉飾決算事件はかなり深刻だった。当時逮捕されたり取り調べを受けたりした役員、幹部の名刺を何枚かいまも持っている。にこやかに名刺交換したその相手が、世の中には公言できない不正を腹の中に隠し持っていた。だまされたわけではないが、裏切られたような気分もある。内部告発した社員を不当に扱うという事件も起こした。根深い何かがこの会社には存在しているようだ。少なくともオープンマインドの会社ではない。
それにもかかわらずオリンパスに対する個人的なマインドシェアは高い。AF-1などの同社製コンパクトカメラも使っていた。そして直近の5年間ほどは、同社が開発したマイクロフォーサーズ(m4/3)のOM-D E-M1とその改良機であるOM-D E-M1 MarkⅡをメインに使っていた(#6)。
これらのモデルは初めからミラーレスカメラとして開発されたものだ。当時のニコンやキャノンの一眼レフと比べればはるかに小さくて軽い。それでいて機能は遜色ない。レンズも小型で文句のない性能だ。しかもパナソニックのレンズと互換性がある。これからはこれで行こうと決心した。
35mmフルサイズとm4/3の中間サイズにASP-Cがある。かつてリコーGXRやニコンD300というASP-C機を使っていた。しかし、ASP-Cは中途半端ではないかという親しいプロカメラマンの主張にも同意できるところがあった。より小さいm4/3サイズのセンサーで満足できる画像が得られるなら、フルサイズとm4/3の2種類のセンサーサイズがこれからの主流になるに違いないと、その当時は考えていた。
ではなぜオリンパスのm4/3に別れを告げたのか。
一つは、オリンパスよりニコンの方がさらにマインドシェアが高かったことがある。20代でニコマートFTnを購入して以来のニコン派なのだ。ニコンに馴染んでいる。ニコンのボディを所有していないにもかかわらずニッコールクラブの会員のままで支部にも属していた。いつかはニコンに戻りたいという思いを捨て切れないでいた。
二つ目は、ニコンの本格的ミラーレス機Zシリーズが発売されたこと。すぐには飛びつかなかったものの、ニコンへ回帰する動機になった。実機を手に持ってみると思いの外に軽かった。OM-D E-M1とそれほどの違いが感じられない。さすがにZレンズ群は大きくて重いが、F4のズームを使うならそれほどでもない。暗いがF4のZレンズの写りは評判がよい。最新のデジタル機ならISOを上げても画質はほとんど落ちないから、F4でも十分だろう。
三つ目は、オリンパスがカメラ事業をスピンアウトしたこと。スピンアウトそのものは悪いことではない。ソニーからスピンアウトしたVAIOのノートパソコンを使っているが、デザインも性能も使い勝手も向上してとても満足している。そういう例があるから、新会社の今後の成り行きには期待も持てるが、古くから馴染んでいたオリンパスでなくなったことも事実だ。
四つ目は、m4/3のスチールカメラが、OM社とパナソニック以外のメーカーに広がらなかったこと。レンズの選択はほぼこの2メーカーに限られる。そのパナソニックもフルサイズに注力し始めた。センサー技術がこの先さらに進歩したとしても、m4/3センサーと35mmサイズセンサーの性能差は平行線を保ったままだろう。些末なことではあるが、オールドレンズを使うにもm4/3のセンサーは小さすぎる。先行きに期待が持てなくなった。
そういうわけでニコンZ6Ⅱという35mm判フルサイズに戻ってきたのだが、その数ヶ月後、ほんの気の迷いで、中途半端と考えていたASP-CのニコンZfcを発売告知の翌日に予約注文してしまった。
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