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<本気解説3000字>シューベルトと【死と乙女】


🎶シューベルトの基本情報

♫実はモーツァルトよりも短命

短命の天才作曲家と聞くと、だれを思い浮かべますか?
私の周囲(音楽関係ではない友人)に質問をしたところ、10人中10人がモーツァルトと答えました。確率10割。
実際、モーツァルトは35歳没と早世の作曲家のひとりです。
モーツァルトに関しては、それだけで何個も記事が書けますので、またの機会にしておきます(笑)

さて、シューベルトは?というと・・・31歳没です。

かなりの早世ですよね。
死因は梅毒治療による水銀中毒といわれています。

死の直前に、ベートーヴェンの棺を担いだのも有名なエピソードです。


♫日本では音楽教育で扱う「魔王」が有名


「マイファーテル、マイファーテル~」
「おとうさん!おとうさん!!~」

このフレーズと激しく鳴り続ける三連符の低音

ほとんどの方が、中学校でシューベルト作曲「魔王」のこのフレーズは聞いたことがあるはず。怖い曲だと感じた方もいるかもしれませんね。

このフレーズを怖いと感じたのであれば、それは曲の内容から考えると正しい感覚と言えます。

子どもは病気で瀕死の状態
お父さんが背負って医師のもとへ連れていこうとしている場面
子どもは死期が迫っているため、死神がみえているのです
ですから「お父さん、助けて」と言っている場面なんですよね。
でも、お父さんは一心不乱に走っているので、それどころじゃない。
そして、最後は子どもは息絶えてしまう・・・

Michikaによる雑なエピソード紹介・・・

こんな内容ですので、怖い、悲しいと感じるのは当たり前です。


♫死後しばらくは「歌曲王」としてだけ評価されていた


今でも一番コンサートで取り上げられるのは、歌曲だと思います。
シューベルトの歌曲は、情緒豊かで、メロディを聴くだけで情景が浮かぶような繊細さも持ち合わせています。

早世であるのに、未完成作品を含めると膨大な曲数があり、死後その曲たちを整理するのに時間がかかったことは想像に難くありません。


今では、歌曲だけでなく、器楽曲もコンサートはもちろんのこと、音大の試験曲やコンクールの自由曲で演奏されることも増えました。


そして、シューベルトは早世だったため「遺作」と呼ばれる、未完成の曲がたくさん存在します。
恐らく、死の直前まで楽曲のフレーズや構想が頭で奏でられていたのでしょう。死ぬ直前まで作曲していたそうです。

その死の直前に完成した曲のひとつが、今回取り上げる
弦楽四重奏【死と乙女】です。

🎶シューベルト作曲「死と乙女」は二つある

♫歌曲「死と乙女」

若き頃のシューベルトは、同じタイトルで歌曲を作曲しています。
詩の内容はこちら↓ ※作詞は詩人のマティウス・クラウディウス

Das Mädchen:(乙女)
Vorüber, ach, vorüber!(行って、ああ、行って!)
geh, wilder Knochenmann!(行って、野蛮な死神よ!)
Ich bin noch jung, geh, Lieber!(私はまだ若いの、行って、お願い!)
Und rühre mich nicht an.(私に触れないで)

Der Tod:(死神)
Gib deine Hand, du schön und zart Gebild!
(手を差し出しなさい、美しく優しい娘よ!)
Bin Freund und komme nicht zu strafen.
(私はお前の友で、罰するために来たのではない)
Sei gutes Muts! Ich bin nicht wild,
(勇気をお持ちなさい!私は野蛮ではない)
sollst sanft in meinen Armen schlafen!
(私の腕の中で、安らかにお眠りなさい!)

詩人マティウス・クラウディウス

死が迫っている乙女は、死(死神)が恐ろしく見えているのでしょう。
しかし、ここでの死神はキリスト教上では、天使に該当します。

キリスト教では 死=苦からの解放 です。


痛みや苦しみを感じる体から解放され、祝福される瞬間なのです。

ですから、歌曲「死と乙女」は宗教的に作曲されており、曲調も穏やかで、乙女が死を迎えたことで、曲の最後は救われたような美しさがあります。
是非、一度聴いてみてください(*^^*)

若いシューベルトが作曲していますので、その時の彼にとって「死」はあくまで宗教的なもので、身近なものではなかったことがうかがえます。

♫弦楽四重奏「死と乙女」

第一楽章冒頭、4パートがユニゾンリズムでスタートし、メロディも何とも重い。初っ端からフォルティシモで始まります。
まるで、死神が襲ってくるかのようなこのフレーズは、曲中に何度も登場しますので、聴いているうちに頭から離れなくなります。

一番の特徴は
全楽章 短調(暗い雰囲気)で作曲されていること

協奏曲や交響曲などの組曲編成になっているものは、第一楽章が暗ければ、第二楽章は明るい曲調で作曲されることがほとんどです。
また、四楽章編成の場合もありますが、すべてが同じ曲調(明るいor暗い)というのは非常に珍しいと言えるでしょう。

あふれ出るメロディと相反して、終わろうとする自分の命。
創造したいものがたくさんあるのに、時間がない。

私はこの曲から、シューベルトの絶望や死への恐怖を感じます。

私自身指定難病が判明した時に、余命の話が出てきたので、ほんの少しですが、シューベルトの心情を察することができます。

一度聴けば忘れられない、第一楽章の冒頭
是非、シューベルトの気持ちに寄り添いながら聴いてみてください。


🎶弦楽器曲からみる作曲家


♫バイオリニスト視点で様々な曲を考えるという作業

演奏する際、必ず曲について詳細に調べます。
作曲家の人生だけでなく、信仰していた宗教、死生観、そして当時の歴史や音楽を取り巻いていた情勢。

楽曲理解をしようとすれば、音楽以外の情報をいかに収集するかが、他の音楽家との差別化にもなります。

楽譜をただ弾く「棒読み」ではなく、その時の私が全力を出して曲を咀嚼した「私だけの演奏」として、聴いていただきたいのです。

♫和声学を師事した過去が、今の私を強くしている

和声学の基礎は、音楽大学に行けば必須科目として履修します。
私は、弦楽器専攻学生は必須ではないレベルまで、すべて履修しました。

それだけでは、物足りず・・・
和声学を教えてくださっていた先生に直談判して、弟子にしていただきました(笑)

先生に
「弦楽器の子でがっつり和声学を教えるのは初めてだ」
と苦笑いされながらOKされました。

和声学を深く学んだからこそできていること

  • 楽曲分析が得意になる

  • プログラムなどの楽曲解説が書ける

  • 器楽レッスンでもアナリーゼ入門的なレッスンが可能

  • 即興演奏が得意になる(その場で作曲できる)

  • 生徒のレベルに応じた編曲&譜面作成ができる

異色なバイオリニストだからこそ、音楽評論家の方々とは違った視点で曲を読み解けるのではないか、と感じています。

♫「作曲家と曲」をシリーズ化していきます!

この記事を書くにあたって、久しぶりにシューベルトについて調べまくり、曲を聴きまくって、すごく疲れました。

すごく楽しい!!

コンサートでよく演奏される曲を優先的に解説できたら
と考えております。
バイオリニストなので、基本的には弦楽器曲またはオーケストラ曲が中心になると思います。

皆さんの音楽人生の彩りのなかに、私という一つの色が良い鑑賞につながりますことを願って・・・



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