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僕に熱狂を与えてくれた「コンシューマーゲーム教」はたくさんの理不尽を教えてくれた

ゼルダの伝説の最新作「ティアーズ オブ ザ キングダム」が発売から3日で1000万本を売り上げ、歴代のゼルダシリーズで最も速い売り上げを示しているそうです。

初代ゼルダの伝説が発売されたのが、1986年(昭和61年)2月21日。私は小学1年生の3学期を過ごしていました。小学2年生になってディスクシステムを買ってもらって、とにかくやり込んでクリアした記憶は残っています。裏ゼルダは遊んだ記憶がありません。愛読していたファミリーコンピュータマガジンを読んでもわからなかったので、挫折したのでしょうきっと。

初代ゼルダや次作・リンクの冒険が世に放たれた1986年・87年は、今でも続編がリリースされているロールプレイングゲーム(RPG)の第1作が発売された年でした。初代ドラゴンクエストが1986年5月27日に、初代ファイナルファンタジーが1987年12月18日にリリースされたのです。

ファミコンを持っていた人で2作をプレイしない人の意味が理解できないほど、当時の少なくない子どもたちはファミコンに熱狂していました。

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ファミコンソフトを買うため初めて行列に並んだのは1990年2月11日、自宅最寄り駅の西武新宿線中井駅から始発に乗って西武新宿駅で降り、家電量販店で売られるドラゴンクエスト4を買い求めるためだ。当時は小学5年生、この日は日曜日。

この頃、超人気RPGは発売日が日曜日だった。ドラクエ3の発売日が1988年2月10日の水曜日、学校を休んで量販店やゲームショップに並ぶ子どもや無断欠勤する大人が続出、社会問題としてニュースにも取り上げられた。エニックスが日曜発売を設定した。

予約販売をする店舗もあったけど、抱き合わせ販売などもあって、おいそれと予約が出来る代物ではなくなっていた。

いくら日曜日とはいえ、さすがに小学5年生がひとりで新宿の家電量販店前で徹夜をしたら補導される。しかも、両親がそれを許すわけなかったので、早寝早起きをして始発で新宿へ向かったのだ。

西武新宿駅をバックにした新宿東口の街並みは、今でも覚えている。すでに長い行列。新宿東口には当時、ヨドバシカメラやさくらやを筆頭に大小の家電量販店が点在していた。

どの店に並べばいいんだ?

「とりあえず家から最も近い繁華街の家電量販店に行けば、なんとか買えるんじゃね?」という淡い期待を持って新宿に来たけど、甘かった。買えるのか、ドラクエ?

家の近くのおもちゃ屋。ドラクエ3は予約販売で買えたけど、4からは抱き合わせセットの予約販売になったので両親が購入を許してくれなかった。その後、スーファミもソフトと抱き合わせ販売していた。あの店、クソだったな。

とりあえず行列に並ぼうと、先頭をチェック。何百メートルかは全く覚えてないけど、朝6時前の寒空、整理券の配布までひたすら並んだ。

何時間か過ぎた頃、店員が整理券を配り始めたみたいだ。行列がちょっとずつ進んでいく。整理券が何枚か全くわからないから、果たして手に入れられるのか見当もつかない。

角を曲がって、整理券を配っている店員の姿が。あとは直線道路を歩けば整理券ゲット!と思ったその時、

「ここからここまでの列の方は横に移動してください」

店員が70〜80人ほどの列を剥がして、別の列を作らせた。その列の中に僕もいた。で、剥がした列の後ろの連中を前にずらし、その列の人たちに整理券を配り始めた。

なにが起きているんだろう。剥がされた列の人たちの多くは状況がのみ込めていない。なぜこの列には整理券の配布がないんだ?状況を把握した数人が店員に詰め寄る形で問い詰める。

「なんでこの列には整理券が配られないんですか?」

「この列の中の多くの人たちは、割り込みをしている人がいると報告を受けたので、後回しになります」

「はっ?」

店員の言ったことが理解できなかった。ずっと並んでたし、割り込みをした人は見る限りいなかったし、この人何を言ってんだ?

「ふざけんな!」「誰も割り込みなんかしていない!」剥がされた列の人たちから怒号が飛び始めた。現場は大混乱。

整理券は店の勝手口の扉の奥にいる店員が渡しているのが見えた。みんな、そこに向かって押しくらまんじゅうのようにグググっと押し込み始めた。当時は乗ったことなかったけど、乗車率200%の満員電車よりも圧迫感があった。

当時は155センチくらいで力もそこまでなかったから、大人の力に委ねられてぎゅーぎゅーになりながら勝手口に進んでいた。いや、進まされていた。

こうなると、元の列と剥がされた列の区別もつかなくなってグチャグチャ。果たしてどうなるのか。僕は整理券をもらえるのか、いろんなことが頭をよぎっていた。

しばらくして、僕の背中がグイッと押されて列の混乱から抜けた。店先にいた店員さんが僕を勝手口まで誘導してくれた。

「はーい、混乱させてすみませんね」

別の店員さんが整理券をくれた。

何が何だかわからんまま勝手口に入って、気づいたら整理券ゲット。嬉しさもあったけど、ぐいっと押された背中の感触がやんわり残っていて、その戸惑いのほうが大きかった。

とりあえず、整理券を半ズボンのポケットにしまって、ドラクエの受け渡しまでどうしようかと思っていたところ、声をかけられた。

「ごめんね。背中を押しちゃって」

振り返ると、3人のカジュアル青年が視界に飛び込んできた。

「君を押せば僕らも勝手口に行けて整理券をもらえると思って。痛くなかった?ごめんね」

「大丈夫です」と僕。そうか、彼らのおかげで僕は整理券を手に入れられたんだ。ようやくこみ上げてきた嬉しさ。このお兄さんたちがいなかったら、僕は家に帰ってから寝ずにプレイして翌日の学校に遅刻しそうになって両親に怒られることはなかった。

「よかったら、受け取るまでそこのマックに行かない?きみひとりだったら、整理券をカツアゲされちゃうかもしれないし」

そう。ここは新宿東口。朝8時頃。ひとりで歩いていたら間違いなく変な目で見られるし、ひとりでマックに入っても明らかに浮く。自宅近所の駄菓子屋なら溶け込めるけど、ここは日本最大の繁華街。

「おう、そこのクソガキ。お前ひょっとしてドラクエの整理券持ってんじゃないか?だから、その辺ウロウロしてたんじゃないのか?おぅ?」なんて絡まれたらたまったもんじゃない。

「うん。行く」。僕は3人のお兄さんとマクドナルドで小一時間過ごした。何を話したかは全く覚えてない。覚えているのはソーセージマフィン。普段食べない朝マック。こんなにも美味しかったのか、いつものコカコーラとのマリアージュは大人の階段を登った気がした。

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今回、ゼルダの最新作発売の動きを見ながら、思ったことがあります。ゼルダも、ドラクエも、FFも、まだ最新作が出続けている。5歳でファミコンを買ってもらってもうすぐ45歳になろうとする私がゼルダ、ドラクエ、FFという単語を綴り、言葉を発し続けている。小学生当時の私は考えもしなかったでしょう。

今回、ドラクエ3や4の熱狂ぶりを分析する報道・情報番組をYouTubeでリサーチする中で、当時の40代以上がこの現象を冷めた目で見ていました。まだファミコンが出て4〜5年の時代だったので、ゲームへの理解はまだまだでした。

だけど、今は違います。初代ゼルダやドラクエが発売されてから37年が経ちました。

今の40代はゲームに対する熱狂を知っています。寝る間も惜しんでゲームを進め、目にクマを作って学校に行って、家に帰ってまたゲームをする。両親にはよく怒られました。

私たちは家庭用ゲーム、いわゆるコンシューマーゲームに熱狂する最初のおっさん世代なんです。今回のゼルダ最新作もきっと、どハマりしているおっさんがたくさんいるはずです。そりゃあそうですよ。ゼルダですよ。

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「いや、俺はもうゼルダとかドラクエなんてやってないから。そんなガキでもあるまいし」

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いや待て。そんなやつに限って、乗車率200%の満員電車の中で左手につり革、右手にスマホを持ってパズルゲームをやったり大食いYouTube見てたりするんじゃないの?

コンシューマーゲームを、そんじょそこらの暇つぶしゲームと一緒にすんな。俺はな、ソフト一つ一つを全力で遊んだんだよ。骨付き肉をしゃぶり尽くす勢いと同じテンションで遊び尽くしたんだよ。今の時代と違ってな、めちゃくちゃ理不尽なゲームばかりだったんだよ。

ドラクエ1と2はふっかつのじゅもん方式でな、小学生の汚い文字でじゅもんを書き留めて何回も何回も確認して「うん。これは間違いない」と思って翌日入力したら、5回に1回は「じゅもんがちがいます」と表示されたたんだぞ。さすがに合わなすぎて泣いたことあるわ。

ふっかつのじゅもんからバックアップ方式になったドラクエ3なんてな、もう少しでバラモスに向かうダンジョンの手前まで行ったのに、翌日カセット入れて電源入れたら、

「おきのどくですが、ぼうけんのしょはきえてしまいました」

小学生の誰もをトラウマにした理不尽だわ。

「たけしの挑戦状」って知ってるか?小学生・中学生には理不尽が過ぎるゲームすぎてクソゲー認定されているけど、あれを攻略本を使ってクリアした少年たちはどんな理不尽にも耐えられる。きっと。

てか私なんてドラクエ並ぶ時にもあんな理不尽なめにあったんだぞ。ゲーム以外で理不尽なこと経験できるのはすごいことだ。

そんな理不尽さをも含めて、コンシューマーゲーム教の私たちはブラウン管テレビに向き合いながら、目を輝かせながら熱狂していたんだぞ。世界観にハマり、次の展開は何だろうとワクワクしながら、十字キーとAボタンを駆使したんだぞ。

死んだ魚のような目をしてスマホをポチポチいじってるあんたらには、コンシューマーゲーム教を批判する資格はないんだよ。

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コンシューマーゲーム教に入信にして、今年で40年になります。ただ、いまは熱狂的な信者ではありません。コンシューマーゲーム機は持っていません。あの頃は有り余る時間の中で熱狂していましたが、いまゲームをすると必ず廃人になる自負があるからです。

熱狂的でない信者ではあるけど、抜けることができないのがコンシューマーゲーム教。それをわかっているからこそ、出来る限り自らを律しているのです。

でも、最近は考えが変わりました。そのキッカケは、僕らが憧れていたあのヒーローが放った「のろいの言葉」でした。

「ゲームは1日1時間」

あの頃は守る気すらなかった高橋名人の言葉、今度はきちんと守ろうと思います。

てきる…か?





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