お正月は、何者かになれる魔法をくれる小麦のような麻薬である
「駅の売店でガムを見かけるたびに、ガムを買って。そのとき、私のことも思い出してほしい」
1990年代に一世を風靡した柴門ふみ原作「東京ラブストーリー」で、恋人の浮気を心配している女性が、恋人に対してお願いした「売店でガムを買って」の件。その恋人は学友の女性を通勤途中の電車の中で口説こうとしていて、電車の乗り換えたときに駅の売店が目に入り、彼女のことを思い出してしまう。結果、売店を見るたびにガムを買い、両手いっぱいのガムを恋人にプレゼントする、というエピソードである。
恋人の浮気を疑っていつつも、直接「浮気しないで」と言うのではなく、恋人の脳内に「わたし」を思い出してもらうべくガムを買うという行動をリンクさせ、浮気相手から意識を戻させる。さすが「恋愛の達人」と表された柴門ふみの表現だ。
人には誰しも、忘れられない思い出がある。その思い出を今でも覚えているのは、何回も思い出しているからだ。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。五感から刺激を受けた私たちの脳内フォルダにある「過去の思い出」にタップして懐かしい気持ちを秒で味わわせてくれる。
さて、過去の思い出にアクセスしたあなたは、何を思うだろうか。
そんなとこだろうか。
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人生なんて我慢の連続だ。こんなに我慢してんだから、もっと人生良いことあっていいはず。なのに俺ばっかり貧乏くじ引いて、アイツだけいい思いしやがって。
ちびまる子ちゃんとサザエさんを見て昭和ノスタルジックに黄昏ながら、憂鬱な月曜日を迎える。サザエさんが見終わった11時間後にはiPhoneのアラームが鳴る。「毎月曜日」「毎火曜日」「毎水曜日」「毎木曜日」「毎金曜日」にチェックを入れているので、土日はゆっくり寝かせてくれる。こんな機能がない目覚まし時計は、用なしの世の中。ちびまる子ちゃんやサザエさんで描写されている振り子の掛け時計も用なしの世の中よ。
自己啓発本は何冊読んだだろう。靴をみがく。コンビニでお釣りを募金する。食事を腹八部におさえる。 人が欲しがっているものを先取りする。 会った人を笑わせる。 トイレ掃除をする。 まっすぐ帰宅をする。 その日頑張れた自分をホメる。 1日何かをやめてみる。 決めたことを続けるための環境を作る。 毎朝、全身鏡を見て身なりを整える。 自分が1番得意なことを人に聞く。 自分の苦手なことを人に聞く。 夢を楽しく想像する。 運が良いと口に出して言う。 ただでもらう。 明日の準備をする。 身近にいる1番大事な人を喜ばせる。 誰か1人のいいところを見つけてホメる。 人の長所を盗む。 求人情報誌を見る。 お参りに行く。 人気店に入り、人気の理由を観察する。 プレゼントして、驚かせる。 やらずに後悔していることを今日から始める。 サービスとして夢を語る。 人と成功をサポートする。 応募する。 毎日感謝する。
「夢をかなえるゾウ」なんて本にはこんなことが書かれていた。出来そうなことだけやってみたけど、結局何も変わらなかった。こんなの出来る人なんて一握りなんだよきっと。
土曜日も、日曜日も、祝日も、お盆の夏休みも、クリスマスも、大みそかも、お正月も、気づいたら何年も過ぎてた。お正月のテレビを見ていると、晴れ着姿のタレントや芸人がたくさんの笑いを届けてくれる。M-1グランプリの興奮と緊張感には及ばないけど、一緒に見ている親戚たちがそれなりに笑顔になっているから、それはそれで満足感はある。
テレビCMを見ていると、やたらユーキャンのCMが目につく。そういや新聞チラシにもユーキャンがある。何かの記事で「ユーキャンは年間広告予算の半分以上を1月に投下する」と読んだな。「一年の計は元旦にありということで、日本人にとってしっかりと計画を立てて物事を始めようと考えるのは、お正月なんでしょうね」とマーケ担当者がコメントしていて、「ふーん」って思ったなぁ。
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4月。新年度。夜の丸の内やら新橋には、洋服の青山やら紳士服のAOKIでフレッシャーズスーツを調達したであろう新卒社員グループが至る所に。これから不条理な世の中にどう立ち向かっていくのか個人的には楽しみだ。
新橋駅前のSL広場にいると、汐留テレビ局の番組スタッフが自分たちの撮りたい構成に沿ったコメントをしてくれそうな「課長がよー」と愚痴りそうなサラリーマンに的を絞って構えている。決してそんなビジネスパーソンにはならないでね。
そんなビジネスパーソンは社会人5年目あたりから、夢と希望に満ちた社会人生活の、社会人のお祝いにと恋人がプレゼントしてくれた革靴に込められた思いなど、新橋の立ち飲み屋で飲んだ金麦大ジョッキとともに心に流し込んでしまったんだよ。
でもさ、そんなビジネスパーソンも1年に一度だけ。夢や目標を密かに宣言しているんだ。元日の昼下がり。ユーキャンのチラシやテレビCMを見ながらぼんやりと。
資格習得に技能向上、TOEICに中小企業診断士。正月に宣言した自分なら何者かになれる。1年365日不安を煽るニュースしか報じないテレビが唯一ハッピーな空気をお茶の間に届けれてくれる。
お正月は魔法だ。
私はそんな魔法に対し違和感を覚え、こんなnoteを書いた。
魔法のお正月に目標や抱負を宣言したとき、あなたはどこでどんな場面だったか覚えていますか?思い出してみてください。
思い出せないって?
いや、思い出せよ。だからこそあなたは、何者にもなれないんですよ。時間は待ってくれませんよ。目標は毎日、胸に刻んで定期的にツイートしましょう。応援してくれる人を増やしましょう。逃げられない環境を作りましょう。
変わるなら、今この瞬間しかないのですから。
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今回は猫山課長のnoteに対するアンサーnoteです。
猫山課長、ありがとうございました!