脳卒中からの回復:一歩一歩進める運動のすすめ
~はじめに~
運動機能障害の他に高次脳機能障害も起こることがあるとされている病気、脳卒中。
なったその後の生活をどう過ごすのか不安ですよね。
こちらの記事では理学療法士から、脳卒中からの回復を助ける運動のポイントを分かりやすく解説しています。
自宅でできる運動や、モチベーションを維持するコツ、家族や地域との連携の大切さなど、具体的な方法を紹介していきますので、この記事をご覧の皆さまが病気と向き合い、一歩ずつ、自信を持って歩むためのヒントになれば幸いです。
〜リハビリテーションの重要性〜
脳卒中によって失われた運動機能やバランス感覚を取り戻し、日常生活を送る上での自立を支援するために、リハビリテーションは非常に重要です。
理学療法士は、患者さんの状態を評価し、個別の目標に合わせた運動プログラムを作成、安全かつ効果的に運動機能の改善をサポートしていくために、回復の段階に応じたアプローチを行っていきます。
回復の段階とは
治療後すぐの「急性期」
急性期後の「回復期」
退院してからの「維持期(生活期)」
となっており、それぞれの時期で適切なリハビリテーションが必要となってきます。
それぞれの期につきましての説明は、以下の通りとなります。
1)急性期(発症〜1ヶ月)
ベッド上での簡単な運動や体位変換、座位保持などを行い、身体機能の維持と筋力の低下予防を図ります。
呼吸や嚥下機能の改善、関節の可動域維持、体幹の安定化など、基礎的な運動を重点的に行います。
2)回復期(1〜6ヶ月)
- 患者さんの主体的な参加を促し、積極的にリハビリテーションに取り組むことが重要です。
- 歩行訓練、バランス訓練、転倒予防訓練などを行い、日常生活動作の自立を目指します。
- 日常生活動作に合わせた機能訓練と筋力強化、持久力向上のための運動を行います。
3)維持期(生活期)(6ヶ月〜)
- 社会復帰を目標とし、自立した生活を送るための運動を継続的に行います。
- 運動機能の維持、生活習慣の改善、体力向上、転倒予防など、健康的な生活を維持するためのサポートを行います。
- 必要に応じて、地域包括ケアシステムと連携し、継続的な運動の機会を提供します。
〜効果的なリハビリテーション方法〜
1.個別評価に基づくプログラム作成
患者さんの年齢、病状、運動機能、生活状況などを考慮し、個別的な運動プログラムを作成し、 運動能力、筋力、バランス、歩行能力、日常生活動作などを評価し、目標達成のための適切な運動内容を決定します。
2.多職種連携によるアプローチ
言語聴覚士、作業療法士、医師、看護師など、多職種と連携することで、より包括的なリハビリテーションを提供することで、患者さんの状態や目標に合わせた、より効果的なリハビリテーションの実現をしていきます。
3.家族との協力
家族の理解と協力は、リハビリテーションの成功に不可欠です。
家族や友人からの励ましやサポート、一緒に運動に参加することでモチベーションの維持にも役立ちますので、家族に運動方法や自宅での運動の重要性を伝え、継続的なサポートをお願いします。
4.日常生活に運動を組み込む
日常生活の中に、簡単にできる運動を取り入れることで、継続しやすくなります。
例えば、テレビを見ながらストレッチやスクワット、家事の合間に軽い体操など。
大事なのは「無理のない範囲での継続」です。
5.楽しみながら継続できる工夫をする
リハビリテーションを楽しく感じる工夫をすることで、長続きしやすくなります。
音楽を聴きながら運動したり、ゲーム感覚で運動に取り組んだりと、自分にとって楽しい方法を見つけてみましょう。
~リハビリに使用する装具や福祉用具~
脳卒中後のリハビリにおいて、専門職の介入が不可欠あると共に、必要な装具や福祉用具は、患者の障害の程度やリハビリの進捗状況に応じて選ばれることが重要です。
それでは、脳卒中患者のリハビリに役立つ装具や福祉用具をいくつか紹介します。
1. 足底装具(AFO: Ankle-Foot Orthosis)
足首が不安定になり、足が垂れ下がる「下垂足(ドロップフット)」の患者に使用されます。AFOは足首や足の位置を正しく保持し、歩行時の安定性をサポートします。
軽量で快適なプラスチック製AFOが多く、特にカスタムメイドのものは患者の足にフィットするため、長時間使用しても快適です。
2. ハンドスプリント(手の装具)
脳卒中で片麻痺がある患者の手や腕に使用され、筋緊張や痙縮がある場合に、指や手首の変形や拘縮を防ぎ、手を正しい位置に保持します。
形状記憶素材のハンドスプリントや、調整可能なベルト付きのものが、装着しやすく快適です。
3. 転倒防止ベルト(歩行補助ベルト)
歩行訓練中や日常生活での転倒を防ぐために使用され、介助者が患者の腰に装着してサポートしやすいように作られています。
脱着が簡単で、調整可能なものが使いやすいです。
また柔らかいパッドが付いているものは、長時間の使用でも負担が少なくおすすめです。
4. トレーニングバイク(リカンベントバイク)
下肢の筋力強化や循環機能の改善に使用されます。座ったままでのトレーニングが可能なため、体力が低下している患者やバランスが不安定な患者でも安心して使用できます。
特に、低負荷から高負荷まで調整可能なリカンベントバイクは、無理なく筋力や体力を強化でき、脳卒中後のリハビリに最適です。
5. ウォーキングフレーム(歩行器)
バランスが不安定な場合や、歩行時にサポートが必要な場合に使用されます。
四脚タイプの歩行器は、歩行の安定性を高め、介助なしでも歩行できる可能性を広げます。
折りたたみ式の軽量なものや、車輪付きのタイプは使いやすいので、患者の状況に応じて調整可能なものが良いでしょう。
6. リハビリテーション用グリップボール
片麻痺がある場合、手や指のリハビリに使用されます。
グリップボールは手の筋力を強化し、柔軟性を高めるためのツールです。
柔らかさや硬さが異なるボールを使い分けることで、徐々に筋力を強化することができます。
7. 床からの立ち上がり補助具
床から自力で立ち上がることが難しい場合に使用されます。
補助具を利用して立ち上がることで、自主的な動作がしやすくなります。
特に手すりや取っ手がしっかりしているものが安全です。
また、折りたたみ可能なものもありますので、収納に便利です。
~自宅で出来る自主トレ―ニング~
退院してからの維持期において、自宅で出来る自主トレーニングを幾つかご紹介致します。
・下肢
座位→腿上げや膝伸ばし、ボールを太ももに挟んで潰す。
立位→左右への荷重や段のうえに非麻痺側下肢を上げ、荷重をかける。
ストレッチ→傾斜を利用した背屈ストレッチ、下腿のリラクゼーション、足首を回す、踵を内外に動かす
・体幹
座位→足がつかない状態で左右リーチ、下方リーチ
(リーチとは腕を伸ばして物を取る動作のことです)
立位→鏡を使った姿勢修正
・上肢
座位→ワイピング動作(テーブルの上で雑巾がけの動作を行い、肩や肘の可動域回復を図る)
ストレッチ→バンザイ(非麻痺側で介助)、肘関節や手関節の各方向へのストレッチ、手指伸展ストレッチ
〜モチベーション維持のコツ〜
1.目標を段階的、且つ具体的に設定する
無理のない目標を段階的、そして具体的に設定することで達成感を味わえ、モチベーションを高く保てるのと共に、目標を達成したら、次の目標に挑戦する意欲も高まります。
例えば「歩けるように」から「馴染みの散歩コースを歩けるように」という感じです。
2.定期的な評価と目標の見直しを行う
定期的にリハビリテーションの効果を評価し、必要に応じて目標を見直すことで、より効果的に進められます。
少しでも変化があったことは正のフィードバックとして入れていくことも、リハビリ継続の一因になりますので、患者さんの状態に合わせて、運動プログラムを柔軟に変更することが重要です。
3..小さな進歩を認識し、称賛する
これは患者さんのご家族の方へのご提案です。小さな進歩もきちんと認め、称賛することで、モチベーションを維持できます。目標達成への過程を可視化し、努力が実っていることを実感させてあげましょう。回復して出来なかったことが出来る、動かなかったところが動くようになる事こそが、リハビリを楽しく行っていける要因にもなりますので、その進歩を一緒に喜んでいきましょう。
〜注意点〜
リハビリは時間がかかるプロセスであり、過度な期待は避けるべきです。
すぐに効果が出なくても焦らず継続することが大切ですので、段階的に目標を達成していくことを意識しましょう。
個々の状態や回復速度は異なるため、焦らず自分自身のペースでリハビリテーションに取り組みましょう。
無理をせず、休息も大切ということです。
〜地域包括ケアシステムの活用〜
脳卒中患者の回復と生活の質向上には、専門職の介入がとても大事であると共に、地域包括ケアシステムの活用が重要です。
ご紹介してきました自主トレでは機能維持が正直限界かと思いますので、機能回復を目指すような形であればやはりデイや訪問リハの介入が必要だと思いますし、維持期の病院、介護施設、専門クリニック、訪問看護ステーション、かかりつけ薬局、地域包括支援センターなど、地域の関係機関が連携することで、患者さんのニーズに合った医療・介護サービスを提供できます。
ここではその活用における介護保険の申請方法や、専門職であるケアマネージャーの探し方をご紹介致します。
. 介護保険の申請方法
介護保険は、要介護認定を受けた高齢者が利用できる制度です。脳卒中後に介護が必要な場合、次の手順で介護保険を申請します。
申請手順
1.市区町村役場に申請する
介護保険の申請は、市区町村役場の介護保険課で行います。本人や家族が申請でき、場合によっては病院のソーシャルワーカーなどが代行することも可能です。
必要書類は介護保険証(65歳以上の場合)や身分証明書となっており、申請後、介護認定調査が行われます。
2.認定調査を受ける
市区町村の職員または委託された調査員が、本人や家族に面接調査を行い、日常生活での困難さや支援の必要性を確認します。また、かかりつけ医からの意見書も重要です。
3.認定結果の通知
認定結果は、「要支援」または「要介護」という形で通知されます。
要支援は1~2、要介護は1~5のランクがあり、認定結果によって、受けられるサービスや支援の内容が異なります。
4.ケアプランの作成
認定を受けたらケアマネジャー(介護支援専門員)と相談し、ケアプラン(介護サービスの計画)を作成します。これによりリハビリや訪問介護、デイサービスなどを利用できます。
・ケアマネジャー(ケアマネ)の探し方
介護保険サービスの利用をサポートする専門職である、ケアマネジャーを見つけるには以下の方法があります。
1.地域包括支援センターに相談
お住まいの地域の地域包括支援センターに相談すると、ケアマネジャーを紹介してもらえます。地域包括支援センターは、高齢者支援の窓口となっており、相談は無料です。
2.介護事業所に直接問い合わせる
介護保険サービスを提供している事業所や、在宅介護支援センターに直接連絡し、ケアマネジャーを紹介してもらうことも可能です。病院やリハビリ施設のソーシャルワーカーに相談するのも有効です。
3.市区町村の介護保険課に相談
市区町村の介護保険課でもケアマネジャーの紹介を受けることができます。介護保険の申請時に相談しておくと、スムーズに手続きが進みます。
4.インターネットで検索
インターネットでも介護保険事業所やケアマネジャーを検索できます。
例えば、「〇〇市 ケアマネージャー 介護保険」などのキーワードで検索すると、地域の事業所情報が見つかります。
※ケアマネジャーを選ぶ際のポイント
ケアマネジャーは長期間にわたり、介護やリハビリのプラン作成をサポートするため、信頼関係が重要です。
また、特に脳卒中後のリハビリでは専門知識が必要ですので。リハビリに詳しいケアマネジャーがいる事業所を各所お問い合わせの上、相談して選ぶとよいでしょう。
〜まとめ〜
いかがでしたでしょうか?
この記事を読んで、冒頭でお伝えした「自信を持って進むためのヒント」が見つかったのであれば幸いです。
脳卒中からの回復は長期的なプロセスですが、適切なリハビリテーションと継続的な努力により、生活の質を大きく向上させることができます。
では、これまでご紹介した内容の中で、特に重要な3つのポイントをまとめておきましょう。
1)個別評価に基づいた運動プログラム
患者さんの状態や目標に合わせた運動プログラムを作成し、安全かつ効果的に機能回復を目指します。
2)多職種連携と家族の協力
理学療法士をはじめとする専門職の連携と家族の理解とサポートが、リハビリテーションを成功させるために不可欠です。
3)継続的な運動とモチベーション維持
自分自身のペースで運動を継続し、小さな進歩を認め称賛することで、モチベーションを高く保ち、目標達成を目指しましょう。
適切な運動プログラムを、専門家のサポートを受けながら継続的に実施することが、回復への近道となります。
脳卒中からの回復は長期的なプロセスですが、適切なリハビリテーションと継続的な努力により、生活の質を大きく向上させることができます。
理学療法士は、患者さんの状態に合わせて安全で効果的な運動プログラムを作成し、その過程をサポートしますので、患者さん自身も積極的にリハビリテーションに取り組み、家族や地域のサポートを得ながら、一歩ずつ前進していきましょう。
医療系任意団体「君がため」では、理学療法士をはじめ、言語聴覚士・作業療法士といったリハビリ専門資格を持っているメンバーが専門的な視点から、高齢者・シニアに役立つ情報を発信しています。ぜひほかの記事もご覧ください。
団体名称:医療系任意団体「君がため」
公式HP:https://kimiga-tame.com/
SNS:https://www.instagram.com/kimiga_tame2023/
\メディア取材など歓迎です!/
団体概要:医療系任意団体君がためは、主に介護予防や健康促進を目的とした活動を行っています。特に、認知症予防に焦点を当てた「納得☆健康塾」という健康教室を毎月開催しており、参加者に対して身体の使い方や介護予防法を実践的に学ぶ機会を提供しています。
ご連絡先:(君がため代表 日高)公式 LINE
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?