太陽とマーマレード
朝ごはん、俺は決まってご飯派だった。
そして、今、目の前には、食パンが並んでいる。
「ナニコレ?」
俺の疑問に、
「パンだけど?」
ストレートな回答をよこす彼女。
「いや、それは見ればわかるじゃん。じゃなくて、朝はご飯がいいって住む前から言ってたよね?」
「言ってたかもしれないね。でも、私は覚えてなかったかもしれない」
なんてすっとぼけてる。
「パンなんて食べた気しないんだけど……」
「それは気のせいでしょ。パンだってちゃんとお腹ふくれるし」
「じゃなくて」
俺の言うことを聞かずに彼女はさっさとジャムを塗っている。
「朝から面倒くさいの。パンは焼くだけで済むから私は楽なの」
「ご飯だってジャーに入れてスイッチ入れれば同じだろ?」
僕は楽さを訴えたけれど、
「ほぉ、ご飯の方がが楽だって? じゃあ君は、ご飯をご飯だけで食べると? おかずはいらないと? お味噌汁もいらないと?」
言うんだね? と彼女が無言の威圧をかけてくる。
「……それはいります」
確かに、全種揃えるとなるとかなりの労力かもしれない。
「そこまで言うなら、自分が朝ごはん当番の時に作ればいいじゃない」
そりゃそうなんですけどね。
彼女の手料理ってやつ、朝から食べて幸せになりたいじゃん。
ああ。こう、同棲してるんだなって思いたいじゃん。
そう思ってても今は白米なんて出てきそうもなく、俺はしぶしぶ目の前のトーストを手に取る。
「マーガリンは?」
テーブルの上、あるのは彼女が塗りたくっているオレンジ色のジャムだけ。
冷蔵庫の中かと思って聞いてみるが、
「ないけど?」
「は?」
まさかの答えに俺は声を失う。
「なんでだよ、せめてパンはマーガリンかバターだろ」
俺はここでもちゃんと反論した、いや、俺の意見を言った。負けるな、俺。
「いちいちうるさいな、マーマレードがあるから充分でしょ?」
彼女はそう言ってどんと俺の前にオレンジ色のジャムの瓶を置く。
「マーマレード? イチゴじゃなくて?」
俺はあまり食べなれないものだったため、不安になって聞き返した。
「うちのお母さん特製のマーマレード。オレンジは太陽の形をしているから、朝から食べると元気になるんだって、我が家のおまじない」
「へいへい」
何が我が家のおまじないだよ。
「黙って食べる。おいしくないなら残してもいいし、口にあうあわないがあるからそこは怒らないよ」
言われるまま俺はマーマレードを塗って、トーストを口に運ぶ。
「うまいっ」
思わずもれた。
「どうだ、参ったか」
勝ち誇った彼女の笑顔を見ながら、俺は一生叶わないんだろうなと思いつつ、二人で過ごす幸せを、甘い甘いマーマレードと一緒にかみしめていた。
#甘い言の葉 「太陽とマーマレード」
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