私的 名作MV 5選
以前「私的名曲10選」をご紹介しましたが、
今回は映像含む作品でございます。
こちらも10選とするつもりでしたが、
私の文章が長いという自覚があるので
ひとまず5選といたします。
・MVは諸刃の剣
MVというものは曲のイメージを
よくも悪くも限定してしまう。
たとえば2023年現在、YouTubeで
最も再生されたMVである(21億再生…!)
Guns N' RosesのNovember Rainだが
私はあまりあのMVが好きではない。
莫大な予算で撮られたあの曲のMVは
リスナーから曲解釈の自由度を奪ってしまった。
というわけで映像と音楽の相乗効果に
成功しているMV、イメージの限定が
曲によい効果を与えている作品を
独断の偏見で紹介させていただく。
1.Garden Of Eden / Guns N' Roses
まずは私が過去の記事でしつこく名を挙げている
このバンドの作品。
決して彼らの代表曲と言える曲ではない。
が、定点に固定されたカメラで撮影された
シンプルな映像は彼らのヤバさが一発で
感じ取れる。
マイクの前でボーカルが見せるブチ切れっぷりと
薄気味悪い表情。
そして他のメンバーたちが激しく演奏する姿は
数あるGNRのMVの中で「狂ったバンド」で
あることが最も強調されている。
最初から最後まで張り詰めたテンションで
あっと言う間に終わってしまうこのMVに
私の友人は「なんだったんだ、今のは……」と
呆気に取られたという。
好き嫌いは分かれると思うが、どちらにしても
その理由は「危なそうだから」だろう。
2. The Suburbs / Arcade Fire
巨匠スパイク・ジョーンズがこの曲に
インスパイアされて撮ったショートフィルムを
編集したMV。
アーティスト本人の演奏シーンはない。
ハネたリズムの間抜けなイントロは
ストーリー性のある映像によって
徐々に切なく聴こえてくる。
観始めたときと観終えたあとでの
曲の印象の変化は不思議な感覚を
覚えると同時に自分の感性の不確かさを
感じざるを得ない。
デラックス盤のCD特典だった
ショートフィルム本編も純文学的で
やりきれない余韻が残る佳作。
蛇足だが素人の学生のみをキャスティングした
という出演者の女の子が可愛い。
3. Doom And Gloom / The Rolling Stones
このバンドについては説明不要だろう。
半世紀以上も活動しているため、
リアルタイムで制作された代表曲のMVは
少ないが、そんなことは関係なく60,70年代の
ストーンズは最高だった。
そんな彼らが70歳を越えた2012年にリリースし、
未だ現役であることを堂々と示した曲である。
この曲のMVは数パターンあるようだが、
推したいのは演奏シーンがないリリックMV。
ポップアートとロックンロールの融合は
昔から他のアーティストも試みているが、
ここまでカッコよく総合芸術としての
完成度が高い作品は珍しい。
ここには退屈という罪深い時間が
一秒たりともない。
4. Sleep Now In The Fire / Rage Against The Machine
メタルの演奏にラップを乗せる、という
ヘヴィロックのトレンドを作った代表的バンドRATM。
彼らは音と同時に資本主義社会の矛盾を
世界に突きつけるためにメジャーデビューしたと
公言していた。
反体制の思想を掲げるロックバンドは
珍しくない。その反骨精神こそパンクであり
カッコいいと感じる人もいるだろう。
しかし彼らの音はそれを差し引いても
めちゃくちゃカッコよかった。
このMVは「ボーリング・フォー・コロンバイン」や
「華氏911」などアメリカのタブーに踏み込む
ドキュメンタリー映画で知られるマイケル・ムーアが監督を務め、NY証券取引所のあるウォール・ストリートにてゲリラライブを行なった様子が収められている。
その行動にどんな意図や大義、主張があったのかは
正直わからないが、すでに3枚のアルバムを
メガヒットさせていたにも関わらず、
RATMはまだ自身らの目的と社会的役割を
果たしたとは思っておらず、その信念を
資本主義の象徴のような場所で
物申したかったのだろう。
実に痛快で彼らの主義に則った行動だ。
ラストが警察にメンバーと監督が連行される
場面というのは少々あざとい気もするが……
5. アルクアラウンド / サカナクション
今回、唯一の国内アーティスト。
もう12年も前に発表された作品だが
音のみならず総合芸術としての
革新性は少しも色褪せていない。
CGなどデジタルな加工を用いずに
アナログと人力で実現させたアイデアが
夜明け前の幕張メッセでこれでもかと
繰り出され続ける。
しかもワンカットで。
サカナクションは音だけでも素晴らしいが
映像とセットで世界観が完成形となるような
世界でも稀有なアーティストであり、
この曲以降も圧倒的な作品を生み出した。
彼らの凄さが中途半端なものでないことは
通常なら出てくるはずの「二匹目のドジョウ」的な
似ているバンドが出てこない事実からも
明らかだ。真似できないのだ。
ここ数年、80年代の音を再構築する
方向性があまりうまくいっていないように
感じるが、また一聴して「参りました」と
白旗を上げたくなるような作品を期待したい。
ちなみに、この作品は文化庁メディア芸術祭で
賞を受賞しているが、それがこのバンドにとって
どのような意味や価値を持つのかはわからない。