食パンと彼女
食パンを買いに行こう
そう提案したのは僕だった。
一貫して米派の僕だが、トーストにたっぷりの苺ジャムとマーガリンを浮かべるのはささやかな贅沢の一つなのだ。
出かける度にパン屋を凝視して歩く彼女は僕の提案に身体ごと飛びついてきた。
君のほっぺみたいにさ、柔らかくて、弾力のある食パンがあったらいいのに。
頬を寄せてきた彼女の髪をさらうついでに呟いた。
「えー、そしたらウチ、食パンに嫉妬しちゃうかもよ」
瞳をくしゃりと縮めて彼女は笑う。
「ねえ、こんな風にくっついてないで、はやく行こうよ」
へんてこな彼女と安心感のある食パン。
どうしてかなのか、似ているように思えた。
おしまい
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