「彼/彼女 (月からの視点) 」
気持ちがすっきりするはずの半月に、
雲がかかっている、と彼/彼女は思いました。
「もう、大丈夫と内側から言い続けるのは飽きたんよ」
個が立つことの出来ない脆さに参っている今月、
不要なものを手放せと言わんばかりに、
嫌な夢が彼らをノックをしました。
「誰かを変えようとしたわけじゃないけど、世界が全部反発してくるみたいだ」
と、彼は靴を洗いながら思いました。
「私は穏やかな呼吸をしていて、自由に駆けたかっただけです」
と、彼女は荷造りをしながら言いました。
彼/彼女は、素敵なパラシュートで別の世界へ行けることを望んでいました。
けれどそれがいつなのか、分からないとばかり思っていました。
眠りの中では幾度も、昔の実家へと帰ってしまうのです。
「誰かに勝つよりも、父や母が優しいことの方が、ずっと尊かった」
彼/彼女は、立派な仕事を夢で重ねているのに、
記憶のない朝がやってきて、とても疲れていました。
彼らが長い間、大切に育んでいたのは光の種でした。
それが今、
ようやく実になったのです。
思いやりを知っている彼/彼女は、
ただ、人々へドリンクを渡して、
一緒に経験を味わっていました。
誰かを変えようと躍起になることはありませんでした。
それでもなお、
「豊かですよね、こんなにも」と笑ってしまう瞬間も、
ふいに泣き出したくなる孤独も、
閃光のように同時にあるのでした。
朝焼けの中、
彼/彼女の声が、月まで響いてきます。
「私はもっと、わたしになって生きたいのです」
*