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映画『レオン』後日譚と翻訳裏話

私がnoteに最初に書いた映画の話は『モロッコ』

これは1930年に製作されたとても古い作品だが、日本で初めて字幕がついた記念すべき映画なので、字幕翻訳の仕事をさせていただいている者として、リスペクトを込めて記録しておいた。

2本目の映画として選んだのが、前回書いた『レオン』である。

なぜこの映画について書いたかというと、もちろん心に残る好きな映画だからなのだが、実はここ最近はずっと観ていなかった。

突然見たくなった理由は、スティングである。先月、ある映画の特典映像の仕事が来たのだが、その映画に彼が出演していたのだ! スティングは、私がニューヨークで初めて楽曲を聴いて好きになったアーティスト。

役者としてのスティングも悪くなかったが、やはり私が好きなのは彼の歌声と哀愁漂うメロディーだ。特に、"Englishman in New York" と "Fragile" それに "Shape of My Heart" が秀逸すぎて泣ける。

いや、楽曲についてはまた後日語るとして、その "Shape of My Heart" を聴いていて、また『レオン』観たい!となったわけである。ご覧になった方はご存じのとおり、映画のラストに流れる切ない曲である。


それで、せっかく観るなら映画についてと、聞き取ったセリフと字幕を書き取る「写経」をやって、記録しておこうと思ったわけである。

「写経」というのは画面上の字幕をひたすら書き写すという苦行(?)で、映像翻訳者のトレーニングの一種である。字幕だけ書く人が多いと思うが、私はディクテーションのトレーニングも兼ねてどちらも書き取る。

だが、全編やると時間がかかりすぎて疲れるし集中力ももたないので、ここぞというセリフを見つけた時に一気にやる。『レオン』は比較的セリフが少な目なので書き取りやすかった。

しかも、古い映画ほど英語が聞き取りやすいことが多い。この映画も最初は分かりやすいと思ったが、意外や、当時13歳のナタリー・ポートマンの英語が聞き取りにくい。まだ子供の舌だし、あえて下品な英語をしゃべってるから発音が明確ではない。

いいセリフだと思っても1文全部聞き取れないと字幕と一緒には出せないので(という私の方針なので)、とにかく聞き取れた中から厳選してみた。

この「写経」の話も翻訳裏話の1つであるが、ここでもう1つ。

字幕翻訳をしていると言うと、よく実情を知らない方たちから「映画のセリフとか聞き取れるんですか?すごいですね!」とか「英語ペラペラなんですね!」とか言われるが、彼らは翻訳者と通訳者を取り違えている。

聞き取った外国語を日本語に訳すのが、通訳者の仕事。私たち翻訳者の仕事は「書かれた言葉」を訳していくことなので、映像翻訳であっても、基本的に映像と一緒にスクリプトという台本原稿を頂き、文字と映像を観ながら訳している。

もちろん、スクリプトが間違ってることもあるので、原音を聞き取れるに越したことはないし英語なら私もだいたいは分かるが、作品はイタリアやドイツなどの非英語圏、アジア圏のこともあるし、全ての言語を理解することはできない(スクリプトは英語台本を頂く)。

最近は帰国子女の方も多いし、自分で頑張って勉強してターゲット言語が全て聞き取れる、ペラペラという翻訳者さんもいるだろう。が、全ての翻訳者がそうであるということではない。

と、長々と今回すべてを聞き取れなかった事情(言い訳ともいう)を説明しているが、翻訳者でなくても、翻訳者をめざしたい英語や他の言語を学びたい、という方には、この「写経」はとてもおススメである。

特に、字幕と吹替の両方が観られ、さらに英語字幕を出せる映像なら最強。

私も、『レオン』はネトフリで字吹両方観られるので、まず先に吹替で観て内容を確認した。字幕は字数制限があって細かいニュアンスを出せない。その点は、吹替の方が多くの情報が得られていい。

次に英語を聞きながら字幕を見て、いいと思ったところは何度も止めて巻き戻しながら両方書き取る。

ただ、配信モノの場合、巻き戻しが結構むずかしい。飛びすぎたり、いいところで止まらなかったり、時間がもったいない(その点、昔のテープレコーダーはよくできていた)。

DVDやBlu-Rayをパソコンで観ると、多少操作はしやすくなる。好きな作品はぜひともDVDやBluRayなどを買って、字幕と吹替両方で、何度も楽しんでいただきたい。

しかも、特典映像があれば、監督や俳優たちの生のインタビューが聞けるし、メイキング映像がこれまた面白い。

最近は、古い映画の4Kレストア(修復)が多く、それに含める特典映像のオファーがよく来るので、仕事的には助かっている。

私は仕事として訳すのは好きではないが(めっちゃ大変なので!)、特典映像を観るのは大好きだ。まあ、特典映像翻訳のグチは長くなるので、またいずれ。


*タイトルの写真はAmazon.comより拝借。


フリーランス翻訳家(映像字幕、実務翻訳)
浦田 貴美枝

著書:『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
https://onl.la/Xngg8Ey (kindle版)
『続・夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
https://onl.bz/c3m3Fcd (kindle版)
『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
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Blog: 『アラカンからのチャレンジ』

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