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裏・拝啓2024

ラインの通知が突然入ったので目にしてみると、村田直樹くんが友達登録をしたようで、新たに村田くんとのトークルームが新設されていた。

村田くんは小学校の頃の同級生であり、同じ野球チームのチームメイトで、私は彼を親友だとすら思っていた。

親友たる彼は小学6年生の頃、ハワイに行き真珠湾攻撃の悲惨さを目の当たりにし、以来今に至るまで太平洋戦争の真実を次世代へ紡ぐ者の役割を担い
その語り部の本懐から真実を恐れる政府から命を狙われており、マスクを被ったマジシャンとして活動後、いまは東京渋谷区の再開発に着手しているらしく、政界にも手を出していると聞く。

いよいよ彼の説明を盛りすぎてしまい現代版20世紀少年の万丈目みたいになってしまったが、まあ水滸伝が成立してしまっている以上、真実なんか1割くらいあっていればよい。

そんな彼が前述のように突然ラインで友達登録をしてきたのだ。


ボンソワール。ミラクル三井です。やあ村田くん。元気かな?

日米の歴史を紡ぐ男へのボンソワール。

恐らく多忙により棘ついた彼の心を温めるには十分なほどのユーモア。

いったい村田君はどのような言葉を返してくれるのだろう。

私はとてもわくわくしていた。

それから3日後・・・。


村田君からの返信はない。

村田くん・・・

私は思わず追撃を行ってしまった。








親友のカフカ青年が本を出版した。

たしかにそれは、かつて私達が語り合った夢でもある小説の出版ではなく、ビジネス本ではあったが、それでも存分にカフカ青年の功績は光り輝いた。


"販売成績は常に上位"という紹介こそが、私からすれば評価されるべくしてされたカフカ青年の当たり前の姿だった。


『ねえ、ほんとは悔しいんでしょ?』


小峰遥佳は私を覗き込むようにみつめながら言う。

「いや、自分のことのように嬉しいよ」

『へー』


つまらなさそうに彼女は相槌をうった。そしてもう一度私をみつめてから


『で、本当は?悔しいんでしょ?』


と問いかけた。


「あのね、悔しくないから。嬉しいから」

『ふーん。私ならたとえ親友でもそんなことになったら殴りたいほど悔しいけどね』


彼女はウーロンハイを一口飲み、少しため息をついて続けた。



『"もうすぐ本を出すんだ"じゃない。"本を出したんだ"って彼は報告したんだよ。キミが文章書いてるのを知っていながら。本を出したいのを知りながら。わかっているなら"実は本を出そうと思ってるんだけど…"で伝えるべきじゃない?出してから実は…なんてあまりにもひどいんじゃない?』

「それが彼なりの優しさなんだよ」

『ずっと思ってたけど、キミ達の関係は変だよ』


変かあ。

頭の中で私たちの関係性の何が変なのかを思い浮かべた。

けれども特に何も感じるものはなかったので、再び彼女に伝えた。



「彼の人生は、すなわち俺のものだから。だからこの本を出したのは俺なんだよ。逆もしかり。俺の功績は、全て彼のものだよ」


『あー、それは完全に拗らせだね』


彼女は呆れて『キミが良いなら良いんじゃない?』と呟いた。







私が中学生で悶々としていた時代、ある日テレビをつけるとそこに村田君と村田君のお姉さんとお兄さんがインタビューを受けていた。

テレビ画面の左上に「大特集!座敷童子の出る家!」の文字が踊っている。

『夜、何度も家の中で見たんですよ』

そう語る村田くんのお姉さんを見るのは低学年のときの上級生として接され以来だったと思うが、高校生で憧れるというよりは、ああ、当時のまま変わらないなあと感じた。


私の生まれは岩手で、真夜中には河童やお化けが頻繁に出ると迷信のように伝えられていた。


その岩手で、小学4年生の時、私ははっきりと座敷童子を見た。

深夜にやたらごそごそと音がするなと思い目を覚ますと、隣で寝ていた従兄の足下で、メガネをかけた短髪の少年が従兄に靴下を履かせていた。

「何してんの?」と問いかけると、少年はしばらく私を凝視した後、ゆっくりと背を向け、扉を開けて去っていった。


寝起きのため頭は回らず、よかった帰ってくれて、と諸々の疑問を捨て置いて変な納得をし、再び私は眠りについた。

翌朝早く目覚め、すぐにあたりを見渡すと、やはり従兄は靴下を履いている。


無理矢理起こした上で

「いつも寝るとき靴下履いてるの?」

と尋ねると

「お前、悪戯すんな」

と言って靴下を脱ぎ、また従兄は眠りについた。


すぐに従姉妹の母親にこのことを話すと、『あー、座敷童子だね。よく来るんだよ』と相手にもせずに言う。


あれから数年後、こうしてかつての親友が、テレビで座敷童子の存在を公表しようとしている。運命的だ。


「では座敷童子の絵を描いてみてください」

そう言われながらアナウンサーに手渡されたスケッチブックに、村田三兄弟が描いた座敷童子は…私が見た座敷童子とは全く違かった。


私の見た座敷童子は半袖半ズボンでメガネをかけた短髪だったが、村田兄弟が描いた座敷童子はテンプレートのような浴衣姿の少年…いや、幼児だった。



あれは今だから思うが


やっちゃってるわ。やりにいってる。


だってそもそも座敷童子なんかいないんだから。

あれでテレビ出たら終わりだわ。

村田家の黒歴史だわ。







それまでは単なる同級生でしかなかった。

よく一緒に昼を食べていた繁原が、その日たまたま連れてきたのがカフカ青年だった。

もともと私は社交的ではないので、そうやっていきなり初対面の人間を食事の場に同席させたりする繁原が無性に嫌いだった。


けれども当のカフカ青年はとても感じが良く、初対面でありながら私をたてるように会話をし、何より繁原が離席するやいなや私に「繁原はS学会なんだよ」と囁いたのがとても面白かったのを覚えている。


親友になったのはそれからまもなくだ。



ある講義でたまたま席が隣になったのだが、カフカ青年は物すごい勢いで講義のメモをとっていた。


もともとこの講義をサボりがちで単位が不安だった私は、カフカ青年に「ノートをうつさせてくれないかな?」と頼んだ。


するとカフカ青年は私に「ごめん」と謝り、「実はずっとラブレターを書いていただけなんだ」と言ってルーズリーフを見せてきた。


たしかにそこには大きなページにぎっしりと、あまりにも狂気的な愛が長文で綴られていた。



「傑作なのはこの後だよ。そしたらカフカ青年、そのページを破ってさ、講義中にもかかわらずその紙を持って5列前にいた女の子にいきなり渡したんだ。周りにはその女の子の友達が何人もいるのに。で、10秒くらいしたらすぐ戻ってきて、俺に"フラれた"って言ったんだよ。だから"知り合いなの?"って聞いたらさ、"いや、この講義で初めて見た"って言ったんだよ。俺はもうおかしくておかしくて腹を抱えて笑ったよ。そこから仲良くなったんだ」



『なんかすごくよくわかった。やっぱり悔しいんだね』


「なんでそうなるの?」

『いまのエピソードは彼の唯一無二なエピソードじゃないよ。キミの話だよ。キミでもやりかねない。その話、キミと彼が入れ替わったとしても成立するよ』

「俺はそんなことできないよ」

『いやできるよ。いや、もうやってたのかもしれない。よく考えて。もしも逆だったら?、、、その上で聞くよ?本当は悔しいんでしょ?』


「悔しいに決まってるでしょ」


『ほらね。あなたの人生はあなたの人生。カフカ青年の人生はカフカ青年の物でしかないよ。もう一回聞くよ?悔しい?』


「悔しいなんてもんじゃないくらい悔しい」



ほらー!!と彼女は叫び、そして



『キミのそういうところが好きだよ』

と言った。








Facebookで村田くんのページを見ると、自身の勤務先が載せられており、且つ彼の経歴が華々しく羅列されている。

よくよく見てみると、村田くんが勤めている会社は、私が転職した会社の取引先のひとつだった。


なんてことだ。


仮に仕事をしたとしても、彼は顧客で私は協力会社だ。


小学生の頃から彼の後塵を拝み続けたわけであるが、ここでもまた私は村田くんの下として生きていかねばならないのか。


まったく。どこまでもこの人生は脇役だな。

そして主役が村田くんだ。


よく昔は、村田くんの歩んできた道のりが羨ましく、またどこかで何かがきっかけで、その道を歩むべきは私だったんじゃなかろうか?と自問することが多かった。

彼を見て、「まるで自分の人生が目の前を通りすぎていくようだ」とも。


だがいまはそれすら勘違いであったと思える。


村田くんの人生に、私は一切なりかわれない。


せいぜい私は彼の前で首を垂れる民草であり、それを守る側の彼の前に見える光景には、声も、顔も違いなどない。



だからこそ、だからこそ私はLINEで追撃をする。


聞いてるか村ちゃん。

俺だよ!俺はここだよ!


【ボンソワール!ミラクル三井で〜す!私の最後の"物を消失させる超能力"をお見せします!】

【いまから、私の輝きをもって、あなたの存在感を消してみせましょ〜う!】



いつかこの能力が、現実を越える日がくることを

2024年。ここに祈る。

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