命に好かれているであろうお前へ
2021年12月29日。
その日投稿されたあるツイートが、とある活動者によってリツイートされ、私の目に止まることとなった。
これを読んだときの感情は、なんとも形容しがたい。
怒りでもあり、呆れでもあり、悲しみでもあり、それらの感情の丁度真ん中を混ぜ合わせたような、なんとも複雑な心境であった。
友達がいなくても良いじゃん!
孤独でも良いじゃん!
仕事できなくても良いじゃん!
死にたくなっても良いじゃん!
何だって良いじゃん!
良いわけないだろ。
私自身が感じる。
自分はもっとこうできたはずだ。
自分はこうじゃなかったはずだ。
自分は…とにかく自分は…いまの自分は違うんだ。
どんなに綺麗事で着飾ろうがその心までは隠し切れない絶望に覆われていく。
良いわけないのだ。
しかしあろうことか、このツイート主はこの「なんでも良いじゃん」に至れない人間を、「小さな幸せを見つけられないから人生がエンタメに変わらない」と暗に切り捨てている。
駄目な作品は小さな物事をスルーしている、と。
私は、それに対する反論を持ち合わせているのだろうか。
いやいや。
反論を持ち合わせているか?だって?
持っているに決まっている。当たり前だ。
○
先々月、ちょっとした事情により仕事が忙しく、単月ながら残業時間が44時間に到達した。
この44時間は自己最高記録である。
そう記録としては。
以前勤めていた会社ではそれが当たり前であるかのように22時まで残業し、当たり前のように土日出勤をし、当たり前のように振休をとらず、そして当たり前のようにまずタイムカードを押してから残業していたため、当たり前のように記録としての残業時間は毎月5〜8時間程度だった。
10時間を超える残業をするといちからその残業はなんなのか、成果物は何か、なぜ残業になったのかを2時間近く問われ、最終的には必ずそれはお前の仕事のやり方が悪いが故の因果応報で、残業は認めないという結果になるため、その現実を我々は甘んじて受け入れていた。
いまにして思えば凄まじい経験である。
よく耐えれたなと思う。
あの頃の私は現在よりも遥かに憎しみに満ちていた。
それを少しでも発散しようと空いた時間では合コンをし、
インターネットで出会いを探し、隙間を埋めていた。
そんな日々を送っていたある日。
なんらかの合コンで知り合った高梨と名乗る女性と私は2人で食事をした。
高梨は有名女子大に通う20歳であり、いまで言うところの楓カレンを65%割引したような顔だった。
嫌な奴だった。
学歴をひけらかし、育ちの良さを自慢する。
いまで言うマウンティングという言葉は格闘技用語以外では当時は存在していなかったが、
口を開けばそういうことをしてくる女だった。
そうやって嫌な女であるのがわかっているのにも関わらず、私は酒に酔い、ついつい辛い現状を嘆いてしまった。
それをひとしきり聴いた彼女は納得しないような表情を浮かべながら言ったのだ。
『でもこの場合、選択する権利はほぼ平等にあったわけで、目先の結果や楽しさ楽さを選んだが故なんだろうなぁ…やっぱり勉強しよう(´・ω・`)
わたし、やっぱり資格しっかりとってさっさと革貼りの椅子に座る(´・ω・`)』
彼女にこう面と向かって言われたその時、私は思わず涙を流してしまった。
何もしていないわけではないのに。
何も選択しなかったわけではないのに。
自分がツラいのはお前自身のせいだよと言われるのは別に珍しいことではない。
だが、嘲笑われたのだ。面と向かって。
【お前みたいになったら終わりだな】と面と向かって言われたのだ。
とにかく情けなかった。
この状況に陥った自分が情けなかった。
この状況を打破できない自分の仕事能力が情けなかった。
なんの経験もないわけのわからない女子大生に平気でそんなことを言われてしまう自分の気安さが悔しかった。
死にたくなった。
実際その日から1年くらいはいつも死にてーを口にしていたと思う。
自分が絶望に覆われた毎日を送っているのを実感できていた。
それでも。
やはりずっと高梨にああ言われて悔しいという気持ちが消えることはなかった。
どうあがいても勝てない女に、なんとしても一矢報いてやろう。そう考えるようになった。
「なんだって良いじゃーん」
そんな気持ちには到底なれなかった。意地があるのだ。
そしてそれから毎日、私は彼女を口説いた。
多い日は一日30通のメールを送り、彼女が『30通は送りすぎだろ』と返信すれば、翌日は29通のメールを送った。
毎日毎日、「ハプニングバーに行こう。経験できないことをしよう」と送り続けた。
「ハプニングバーに行けば人生がステップアップするよ。ほら。周りを見渡してごらん。同年代の友達であの場所にたどり着いた子がいるかい?」
「見学するだけでもいいんだよ」
「ウェルカム トゥ ザ アンダーグラウンド。キミは今、運命を変えるメールを受け取っているんだ」
もう狂気以外の何物でもない。
しかし相手の女がなんとなく世間知らずのバカっぽいことはわかっていた。
最終的に私は「絶対にエロいことしないから。ね?見学だけ行ってみよ。いざとなったら俺が君を守るよ」と嘯き、まんまと彼女を新宿のリトリートというハプニングバーへと誘導した。
店に一緒に行ってからは早かった。
カップルとして入店した我々に、湯水の如く湧く魑魅魍魎共こと単独男性達が全力ヨイショ。
まんまとその気になった彼女は、見事に初対面の男性達と4Pをした。
私は覗き窓からその光景を見ていた。
男性のうちの一人が彼女のパンツを脱がせ、その色は薄暗い照明のせいで何色かは判別できなかったがたしかに大人びた淫靡な色であることはわかった。
なんだあの女。
勉強して良い職に就くとかお前みたいにはならないとか言ってたくせに。
初対面の男複数にパンツ脱がされてんじゃん。その暇あったら勉強しろよ色狂いめ。と思った。
そして別の男性が、自分のモノを彼女に咥えさせようとした際に、床に落ちていた彼女のパンツを踏んだ。
それに気づかずに彼女は自分のパンツを初対面のオジサンに踏まれながら口淫をしている。
その瞬間に、私は彼女を完全に凌駕し、勝ったと思った。
一矢どころではない。二の矢、三の矢も彼女を貪っている。勝った。
自分を諦めなかった結果が、この4Pだ。
妬み嫉み恨みを忘れなかった私の陰湿さが、彼女を淫乱に堕としたのだ。
後に誰かが、この私の経験を「バカばっかりだ」と一笑した。
同時に「でも面白かったけどね」と言ってくれた。
これがお前のなんだって良いじゃーんで描けるかよ。
お前の知るエンタメで面白くできるかよ。
俺はいつだって、絶望と生きてるよ。
○
冒頭のツイートに対して。
私は、私と自分の友人、そして現在も理想の自分との乖離に悩み苦しむ人達を勝手ながら代表するつもりでこう叫ぶ。
はぁぁ!!???誰お前??うるさいよバカ!
勝手に他人の絶望をお前の価値観の中のエンタメにしようとするんじゃない。
なんでも良いじゃーんなんてバカみたいに生きてるお前のエンタメ人生なんかより
日々悩み、苦しみ、他人を妬み、嫉み、自分を嫌いながらそれでも生きて生きて生きている人間のリアルのほうが
100000倍カッコイイし面白い!!!!
だいたいね、絶望してる人はもうお前の言う小さな幸せをみつけてどうこうのところなんてとっっくの昔に通り過ぎてますよ。
もうその積み重ねじゃどうにもならないところで苦しんでくらかこその絶望なんですよ、みんな。
そんな半世紀前の自分にわかったように薄いポエムかます奴がそもそも面白いわけがない!
だから少なくともこんな全く売れてないポエム劇団員よりも全然我々のほうが面白いです。
毎日悔しい気持ちを抱え、時には押しつぶされそうになってる皆さん、大丈夫!カッコイイよ!
頑張って頑張って生きていくことは、バカの言うエンタメより全然カッコイイよ!魅力的だよ!
そもそもエンタメである必要なんてない。
これは自分の人生です。
だからこそ。
私はこれからも毎日、そんな連中に唾を吐き、汚れきった地面を這ってでも進みます。
俺はこれからも誰かを嫌い、誰かを倒す。
そんな日々を送ってやる。
2022年、遂にスタート。
命に好かれているお前へ。
精々小さな幸せを見つけて一人で笑ってろ。
こっちはもっともっと大きな幸せを諦めないで
生きて生きて生きて生きて生きます。