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フェイク

花本にLINEをブロックされてしまった。


私は大学卒業の際に彼女をmixi上でディスり、また度々Facebookでもひどく乏しめてきた。


特に彼女が小田急線南町田駅へ差し掛かる電車内で星駿平に告白されたが靴が少林サッカーみたいだったので断った話や、
”名前を奪われた”酒井ゼミの眼鏡メンバーがバイクに乗りながら告白してきた話はどうやら完全に公開してはいけない話だったように思える。


それでも辛うじて細い糸が切れなかったのは彼女の優しさ以外にないだろう。


最後のやりとりは私からの「阿部若菜の現況を教えてくれ」というものだ。


「彼女はいわゆるこの国のコールドケースと呼ばれる重大未解決事件に関係している可能性がある」


そう伝えて既読がついて以降、何度となく捜査協力を求めるLINEを送り続けたが、そこに既読マークがつくことはなかった。


これにより、花本自身も事件に関与している可能性が浮上してしまった。


この喪失は悲しくもあり、つらくもある。




けれどもカフカ青年と約束をした。
私たちは女性の友人達の屍の上を歩いている。


だからこそ歩みを止めるわけにはいかないのだと。


友人ができれば即座に使い捨てる。司法に怒られない限り。


「”愛してる”って女が言ってきたって、誰かととっかえのきく代用品でしかないんだ。」


ミスチルファンがぶち切れてもおかしくないほど、私たちは桜井和寿を都合良く利用している。













年末最終日に同僚から「この後打ち上げやりますか」と誘われたが、私は「予定があるので」と断ることにした。


基本的に飲みに誘われれば必ずと言っていいほど行くようにはしているのだが、どうにもしっかり1年間を振り返りたくなり、一人になる時間が欲しかったようだ。


思い返せば2024年は絶望からスタートした。


前職にて1月20日付けで有給消化に入る予定にしていたにも関わらず、1月4日の時点でそれが社内でオフィシャルになっておらず、あろうことか新年の挨拶回りに同行させられた時には絶望過ぎて、俺の人生はこんなにも搾取され続けるものなのか…と涙が出るくらい悲しくなってしまった。


だが無事に有給受理されてからの消化33日(7日有給削り)は天国のような長期休暇だった。

一転、再再就職後は全く同業種と聞いていたのにやっていることが全然違い、とにかくひたすらついていくのに精一杯の、それはそれで地獄ではあった。


地獄→天国→地獄。


あまりにもこの一年はあっという間過ぎたように思う。


そんなことを考えながら、一人で錦糸町駅に寄り、ガッテン寿司で寿司をたらふく食べた。


ガッテン寿司は回転寿司ではあるが所謂大手回転寿司屋よりも少し値が張り、何より美味い。

5000円分も寿司を食べて、ビールを飲むこの時間は、まさしく自分から自分へのご褒美で、一年の集大成でもあった。

最初は一人でガールズバーに行こうかキャバクラに行こうか考えたが、その選択肢を捨てて寿司を食べたのは大正解だ。



結果的に昨年ガールズバーに行った回数は0回。
キャバクラは接待を受けて1回、懇親会で1回の計2回だけ行った。

その接待は北海道で業者から受けたもので、その後セクキャバにも行ったが、心の底から不毛であった。


20代前半は一時期三度の飯よりガールズバーやキャバクラが好きで、自ら開業を考えるほどだったが、今日現在に至ってはそんなことに時間と金を使うのならばずっと1人で寿司屋に入り浸ったほうがマシだと思っている。

なんなら寿司が好きすぎて、寿司屋になろうかと思っているほどだ。


同時にこの境地こそが、歳をとるということなのかもしれない。







「近くにダーツバーがありますので」

「すみません。僕はダーツをやったことがないんです」

「それは珍しい。学生時代も通らなかったんですか」

「お金もなかったものでして」


協力会社の担当者は私を接待し、一次会ではしっとりと美味しい日本酒をご馳走してくれた。


「二次会はガラッと雰囲気を変えましょう」


そう言って彼が提案してきたのがダーツバーだった。


彼は同年代でありながら高身長のイケメンでハイブランドな服を着ており、尚且つダーツを嗜む。

その事実は深夜のカップ麺で顔を浮腫ませ、洗濯機で洗浄可能なユニクロのスーツに身を包むリトルジャパニーズの私を一層惨めにさせる。



15年前、『買いたい物があるから付き合ってほしい』と花本は私を誘った。

小田急線で雑談をしながら町田駅に行き、案内されるがまま向かった場所はダーツの専門店だった。


『最近ダーツにハマっちゃってさ。マイダーツデビューしようと思って。やったことある?』

「いや、ないよ。ダーツ、キモいし」


ふーんと興味無さそうに言いながら、彼女はこれまた高価そうなダーツセットを手にとり、私に見せつけてきた。


『買ってくれてもいいんだよ?』

「無理に決まってるでしょ」

『じゃあ一緒に買おうよ。一緒にやろう』

「勘弁してくれ。ダーツなんて廻るルーレットの中からパジェロを的中させるくらいしか用途ないでしょ。バカげたバーで矢を放つ酒に酔ったバカげた連中の一体何割が、東京フレンドパークに出れるんだよ」

『バカだなあ。ダーツは就職活動にも役に立つよ』

「ほら。ダーツやってる奴はロクでもない」




思い返してみればあの日ダーツセットを買わなかった以降、何にも刺さることのない人生を私は歩んでいる。

仮にあの日が分岐点であるならば、あそこでダーツセットを買うルートを選んでいれば、私もハイブランドなスーツを着こなせていたのだろうか。


運命の矢を、私は手にすることすらないのだ。



花本はいつも優しかった。

いや花本だけではない。これまで友人になってくれた全員が、私に広義で優しかったように思える。

そんな思いやりある人たちのうちの多数に対して、私はあまりにも突然に一方的に誹謗中傷を行なってきた。


だがもう歩みを止めるわけにはいかない。

私は誹謗中傷を続けねばならない。
それが正義であり覇道であり、言い訳だ。いつか捕まるだろう。


けれどもふと冷静になったときに、抱えている虚しさの巨大さに、私は慄いてしまうのだ。



だからこそ、これもあまりにも一方的に。


花本

ごめんね。

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