【映画×クチコミ前編】映画のヒットを左右する「クチコミ」とは何なのか
こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原健也です。
これまでの記事で「意欲」の話をしてきましたが、この「意欲」に一番効くものが、皆さんご存じの通り、「クチコミ」ですよね。
クチコミが映画マーケティングにおいて物凄く重要であるということは大昔からの周知の事実です。ただし「クチコミ」と一口に言っても、その中でもいろいろな分類があり、なんだか正体がつかみずらい気がします。
そこで今回はこの「映画におけるクチコミ」について、整理して少し深堀って書いてみたいと思います。
「ZMOT」
という言葉をご存じでしょうか。「ZERO Moment Of Truth」といい、Googleが提唱した「生活者が購買行動を決める瞬間」に関するメンタルモデルのことです。
インターネットを経由した情報収集が一般化する中で、生活者は店頭に行く前に積極的に比較検討を行い、購入する商品にある程度当たりをつけています。つまり店頭に行くまでに既に勝負がついてしまっている。
上記の「店頭」を「映画館」に置き換えてみてください。かつて映画館がレジャーとして圧倒的な力を持っていた時代には、ふらっと立ち寄ったり、デートで映画館に集合してから、その映画館のラインナップを確認し、観る映画を決めていた、なんてことも多かったと聞きます。
今はそういった方は、どちらかというと少数派。大多数の人がネット上で情報収集し、観たい映画に当たりをつけ、その映画が公開されている映画館を調べ、空いている時間を予約する。こういった検討導線になっていることでしょう。
このネット上で検索し、観たい映画を決めるまでの過程、つまり映画における「ZMOT」に最も大きな影響を与えるのが、クチコミというわけです。前述の通り、映画におけるクチコミの重要性は普遍的ですが、ZMOT全盛の現代ではよりクチコミの影響力は強くなっていると言えます。
クチコミは2種類存在する
クチコミには「フロー型」と「ストック型」が存在します。以下、我らがトライバルメディアハウス池田紀行社長の記事を引用します。(モダンエイジはトライバルメディアハウス内の一部門です)
これが映画においてどうなるのかというと、大枠以下のように分けることができるでしょう。
一概には言い切れませんが、映画において、「話題になっている」「面白そう」という「観たい」を作るのがフロー型(「興味」)、その「観たい」を後押しして、「これなら安心だ」「高評価だから観に行こう」という「観よう」を作るのが「ストック型」(「意欲」)になるケースが多いでしょう。
そのためフロー型もストック型も高いに越したことはありません。
映画やエンタメだけに起こりうること
ただし、こんなクチコミを見たことはないでしょうか?
上記のような主観的で熱狂的なクチコミに惹かれ、映画やエンタメにお金を払ってしまった経験が皆さんにもあるのではと思います。
「いろいろ悩んでいて落ち込んでいたときに、この映画を観て元気をもらった。俺の人生の特効薬ともいえる作品だからお前も観てくれ」
かくいう私もそうやって知人から熱弁された『シャークネード』シリーズにハマって一気見し、5作目の『シャークネード5 ワールド・タイフーン』に至っては、劇場まで駆けつけてしまった記憶があります(笑)。ちなみに『シャークネード』シリーズ1作目のFilmarksレビューは「2.9点」。お世辞にも高いとは言えない評価です。
レビューもある程度信頼していますが、それよりも知人がそこまでオススメする作品だったら評価は置いておいて観てみたい…。
そう、こういった熱量の高いフロー型のクチコミは、レビューなどストック型を乗り越え、生活者を鑑賞に向かわせる強いパワーがあるのです。こうした主観的熱量に基づくクチコミのことを、「高濃度なクチコミ」といいます。
こうした高濃度なクチコミによる消費行動は、エンタメ以外の「一般商材」では、なかなか起こりづらい現象です。例えばあなたの家の掃除機が壊れた場合を想像してみてください。いくら友人が「この掃除機メーカーとにかく最高だから買った方がいいよ」と熱弁してきても、Amazonなどでレビューを調べてイマイチだったらまず買わないですよね。
掃除機ほど価格が高くない商品でも、映画チケットと同じ2000円くらいの商品(例えばコスメや保湿クリームなど美容系の商材)だったら、一応ストック型のレビューも意識はすると思います。
映画やエンターテインメントが違うのは、生活者にとって客観よりも主観が重視される商品であるということです。そのため映画においては主観的で熱狂的な「高濃度なクチコミ」が有効に働きやすいのです。
「高濃度なクチコミ」
映画マーケティングで最も生み出したいのは、この「高濃度なクチコミ」です。なぜなら、前回までの記事では強い感情=「意欲」を引き上げるためにまず「興味」から、という話を散々してきたのですが、高濃度なクチコミは生活者のZMOTに強い影響を及ぼし、いきなり「意欲」をぶち上げてしまう力があるからです。
ただし、この高濃度なクチコミにおいての絶対条件が、必ず鑑賞者のクチコミであることです。いくら作品を観てない人に魅力を熱弁されたところで、その信憑性ははっきり言って薄いですよね。なのでコントロールが凄く難しい。。
こうした鑑賞者の高濃度なクチコミから爆発したのが、直近の『トップガン マーヴェリック』の大成功でしょう。
一説によると公開当初は前作『トップガン』のリアルタイム世代、中高年の生活者が多く劇場に駆けつけたと聞きます。そこから熱狂的なクチコミが広がり、若年層にも波及し、社会現象的な大ヒットに至りました。
国内興収は130億円を突破しましたが、業界関係者によると当初は20~30億円の興収を見込んでいたとのことで、どれだけ高濃度なクチコミの影響力が強いのかわかります。
「でも鑑賞者のクチコミが絶対条件なら、それって『作品力』が高くて(面白い、素晴らしい作品で)、しかもお金があった作品だったから、高濃度なクチコミも生まれたんじゃないの?」
そんな声が聞こえそうです。たしかに高濃度なクチコミを生み出すためには、一定の「作品力」が必要なのは大前提です。しかし映画マーケティングで、高濃度なクチコミの発生を「後押し」することはできると思うのです。
長くなりそうなので、続きは後編で。