「興味」を獲得するターゲット設定は「アセット⇒トライブ⇒デモグラ」の順で考える。
モダンエイジの映画大好きマーケター栗原です。
前回は、映画を劇場に観に来てもらうためには、「意欲」が重要で、「意欲」を上げるためには「興味」を獲得する必要がある、という話をしました。今回は具体的に、その「興味」をどのように作るのか、というお話をしたいと思います。
「広くあまねく」では「興味」は作れない
前回の記事でも、現代は「情報の大爆発」で、情報は生活者ごとに「パーソナライズ」されていると書きました。
これは皆さんも心当たりがあるのではないかと思います。Twitterのタイムラインに自分の興味がある情報ばかり流れてくる、YouTubeショートやTikTokで類似のコンテンツばかりが再生されるなどなど。
現代はこのパーソナライズを背景に、「広くあまねく」なオールターゲットなコミュニケーションでは、一人一人に対するメッセージが弱まってしまい、「興味」を持ってもらう前に、忘れられてしまう、スルーされてしまうリスクが高くなっているといえるでしょう。
映画の情報が生活者のパーソナライズの候補に残り、映画に対する「興味」のフックを作るためには、生活者それぞれに深く刺さるようにコミュニケーションを尖らせていかなければなりません。
そのため施策を考える上でも、広告出稿を考える上でも、「広くあまねく」ではなく、誰にその映画の情報を届けたいのか、誰の心を動かしたいのか、といったターゲット設定を「先鋭化」していくことが、「興味」を引き上げるためには重要になります。
ターゲットは「アセット⇒トライブ⇒デモグラ」の順に考える
「広くあまねく」ではなく、ターゲティングを先鋭化するということは、情報を届ける人、届けない人をはっきりと区別するということになります。
そのためこのターゲット選びは慎重に行わなければいけません。
よく聞くのが少女漫画を原作にした「キラキラ映画」だから10代女性をターゲットにしようとか、主題歌がOfficial髭男dismだからそのファンを狙っていこう、などのターゲット設定ですが、果たしてそれで十分でしょうか。
シンプルなアプローチも時には大切ですが、それだけではターゲットが広すぎてぼやけていたり、逆に狙うべきターゲットを見落としたまま施策が進んでしまうリスクがありうると思います。
本当に必要なターゲットを取りこぼさない、かつターゲットの先鋭化を両立するために、下記の順序でターゲット設定を検討していくと良いでしょう。
ずばり「アセット⇒トライブ→⇒デモグラ」です。
それぞれ解説していきます。
「アセット」…作品の「売り」は何か
まず取り組むのは、作品のアセット(資産)を洗い出すことです。要は作品の「売り」=セールスポイントはどこにあるのか。
例えば原作が有名とかキャストが豪華とか、実績のある監督、独特の世界観などわかりやすいものでも、「景色が綺麗」とか「超怖いシーンがある」とか定性的なものでも構いません。とにかく漏れなくダブりなく(MECEに)、洗い出してみましょう。
ポイントなのが、ここではあまり背伸びをせずに、ある種「現実的・客観的」に作品が持つアセットを考えることです。
というのも、作品が本来有していないアセットに頼ってコミュニケーションをとってしまうと、映画の公開後、そのコミュニケーションによって「意欲」が湧き劇場に観に来てくれた観客と、作品の内容との間で、”悪い意味での”期待値のギャップが生まれてしまう可能性があるからです。
それが特に顕著に出たのが、『大怪獣のあとしまつ』という作品。怪獣映画としてのアセットをベースにコミュニケーションをとってきましたが、実態は脱力コメディだったために、期待値のギャップからネガティブなクチコミを投稿する鑑賞者が散見されました。
アセットはターゲティングを検討する上での入口です。まずここで誤らないように、希望的観測をするよりも、あえて現実的にアセットを洗い出してみてください。
「トライブ」…アセットに紐づく「〇〇好き」
次に「トライブ」です。「トライブ」とは、年齢や性別を超えて、興味関心や趣味嗜好で繋がった部族という意味です。簡単に言うと「〇〇好き」。
K-POPトライブ、Vtuberトライブ、SnowManトライブ、バスケトライブ、鎌倉トライブ…、生活者は、あげたらきりが無いくらいの多種多様なトライブに属し、積極的に発信し、繋がっています。このトライブはアセットと紐づけて攻めることによって、大きな効果を発揮します。
シンプルにわかりやすい例だと、ホラー映画としてのアセットが強ければ、類似したホラー作品や監督のトライブを攻める余地が非常に大きいでしょうし、または原作アセットが強い場合、その原作のトライブはもちろん、その著者や、著者の他作品のトライブも射程圏内に入るかもしれません。
このアセット(売り)が届くと心が動きそうな人が誰なんだろう?、と憑依しつつ考えてみると、トライブはおのずと見つかるはずです。
ただし、このようにアセットに紐づけて考えつつも、考え始めるとトライブは際限なく多くなり過ぎてしまうものなので、下記観点から優先順位をつけてみてください。
①インスタのハッシュタグ検索でタグ付けされた投稿数を調べる。
その対象についてクチコミをするということは、ある程度関与度が高い(トライブに属する)ことの証明になります。現代の生活者、特に若年層は、自分が興味関心のあるものにタグづけをして投稿する傾向があるので、このタグづけされた投稿のボリュームを見てみるといいでしょう。
②ソーシャルリスニングツールでTwitterのクチコミ量を調べる。
①と同じ考え方ですが、Twitterの方がカジュアルにつぶやかれやすいので、どれだけその対象が生活の中で登場するか(身近で、なくてはならない存在か)を測るには有効でしょう。これは弊社でも提供しているツール、ブームリサーチなどが使いやすいです。クチコミのボリューム自体は小さくても、非常に熱量高くツイートされているコンテンツなども狙い目です。
③Googleトレンドで検索ボリュームを確認。
これは特定キーワードの需要度の推移がみられる無料ツール。現在どれだけそのコンテンツの検索ニーズが伸びているのか知るには最適です。
④自分の中にある「データベース」に従う。
①〜③を定量的な参考データとしつつ、最後に決めるのは宣伝プロデューサーなど作品の担当者です。これは映画やエンタメ感度が高い担当者の方の肌感や裁量が生きてきます。
上記のように、トライブのボリュームやつぶやかれているクチコミの熱量の観点から、攻める余地が最も大きそうなトライブを4つくらい決めてみてください。そして最後にしっかりとアセットに紐づいているかどうかは確認してくださいね。
◾️最後にデモグラを考える
デモグラはご存じの通り、年齢や性別、居住地域、職業など、属性です。このデモグラはターゲットの解像度が低い最初に考えると、ついつい広くとってしまいがちなものです。そのため、あえてアセット⇒トライブを設定して、ターゲットが輪郭を持ってきた最後に検討するのが望ましいでしょう。
考え方としては、そのトライブに属する生活者はどの辺の年齢層なのか、男性が多いのか女性が多いのか、どんな場所に住んでいて、どんな生活を送っているのか、といったことを想像してみることです。
そしてポイントはF1やZ世代や「親子連れ」など、わかりやすい広い括り方ではなく、女性なら「20代前半」とか、親子なら子どもの年齢は「小学校低学年」とか、具体的に検討してみましょう。
トライブやデモグラが具体的であればあるほど、ターゲットのニーズやインサイトが想像しやすいので、施策も良いものを検討しやすいです。
ターゲット設定が優れている映画たち
上記でみてきたような観点から、非常に先鋭化された、秀逸なターゲット設定を行なっている作品を紹介します。
○『花束みたいな恋をした』
大学生のカップルが付き合って同棲して、別れるまでの過程を描いた映画で、コロナ禍の映画業界で40億近いヒットを上げました
本作を劇場で鑑賞したのは、10〜20代の若年層と言われますが、本作のInstagramアカウントのターゲット設定が非常に優れていると思います。
https://instagram.com/mugikinu?igshid=YmMyMTA2M2Y=
このアカウントでは映画の直接的な宣伝はほとんどなく、同棲している主役2人の日常が、エモーショナルに切り取られたような投稿がされています。こうした作品の世界観に没入させるような投稿が、10代後半~20代前半の若者たち、特に大学生の「興味」獲得に寄与したのでしょう。
まずアセットとして「等身大ラブストーリー」があり、それが直接トライブとして機能し、そしてこのトライブが属するのは特に大学生のカップルで、彼らはInstagramにいる。こういったロジックで組み立てられたであろう、秀逸なターゲット設定でした。
〇『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
現在公開中の本作ですが、低予算・小規模公開ながらスマッシュヒットを記録し、フィルマークスのトレンド欄でも上位をキープしています。
内容としては、広告代理店を舞台に、月曜日をループする社員たちの奮闘を描く映画です。そしてまさにTwitterでサラリーマンを狙った秀逸なクリエイティブが展開され、話題を呼んでいます。
上記のように、登場人物の画像を背景に、月曜の仕事に向かう憂鬱な心境が赤裸々に表現されているシンプルなクリエイティブですが、毎週日曜の夜に同じフォーマットで何度もツイートされ、多くのエンゲージメントを獲得しています。ターゲットの解像度が高いことで、多くの「月曜日が憂鬱なサラリーマン」の「興味」を獲得できている好例でしょう。
まとめ
こうしたターゲット設定が秀逸な作品たちは、マーケティング予算があまり多くなくても、クチコミから「興味」が伝播することによって、ヒットを記録する場合が多いと個人的に思います。
それは情報大爆発の時代でも、ちゃんと一人一人の「興味」を湧かせられるくらいに、ターゲットが先鋭化されているからに他ならないと思います。
結論、ターゲットの解像度を上げられるならどんな方法でも良いのですが、マーケターとしてのオススメは、今までお話ししてきたような下記の順序で考えることです。
「アセット⇒トライブ⇒デモグラ」
まずは作品が持っているアセットを洗い出し、アセットに紐づくトライブの優先順位をつけ、最後にデモグラを検討する。
いわれてみれば当然の原理かもしれませんが、特にいきなり「デモグラ」から検討を始めたり、「アセット」から「トライブ」をすっ飛ばして「デモグラ」を検討したりと、ターゲット設定を検討するうえでは陥りやすい思考なので注意が必要です。
この順序で意識的に守ることによって、肝要なターゲットは外さず、ターゲットを先鋭化させる両立ができる可能性が高くなると思います。
ぜひ「興味」を引き上げるうえでの参考にしてください!今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
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