感想「平成くん、さようなら」
こちらはネタバレをガンガンに含む感想です。読了後の方向けです。
最初に言っておきたい。
私はこの「平成くん、さようなら」は家族のように大切な猫がいる方には絶対に勧めない。
年末にバーで知り合った方に「この本を読んだんだけど、女性の感想が知りたい」と言われたのをキッカケに購入。
作家の人のこともよく知らず、評判のほどもなにも知りない。
「平成」って名前で流行りに乗った、コメンテーターみたいな人が書いた本かな?という偏見を持ちながら、「フーガはユーガ」「ベルリンは晴れているか」「大富豪からの手紙」「トクサツガガガ15巻」と一緒に買った。
我ながら、話題の本なら何でも読むのか、と思うラインナップ。
(断っておくが「トクサツガガガ」は私自身も特撮ヲタクのため、ずっと前からファンである。)
実際、話題の本、勧められた本はすぐに読むタイプなので、否定はできない。
ドトールでココアを飲みながら読み始めた瞬間、セックストイという単語に目が白黒した。
最後まで読めば、平成が性交渉を嫌う理由が分かるのだが、それにしてもびっくりした。
性交渉の話が冒頭にきているのならば、テーマとしてキーになるに違いない。
とりあえずそういう考えで読み進めることにした。
結論から言うと…
この本、なにが言いたかったんだろう?笑
平成(キャラの名前はひとなりと読むらしい)にも、愛にも誰にも共感できない。
エンターテイメント性が高いという印象も薄く、じゃあ社会のメッセージ性が高いのか、と聞かれても何がメッセージか分からない。
『平成』という時代を懐かしむなら、『平成』らしい風俗ももっといっぱいあったろう。
固有名詞がやたらと出てくるが『平成』生まれだけどピンとこないものが多すぎた。
「マイスリー」って一般的?「睡眠導入剤」でよくない?
「UBER」ってなんだよ、と思い調べたら、「スマホで呼べる運転手付き配車サービス」らしい。
それを利用してる『平成』生まれいるの??
仮想通貨の億り人とかじゃないと無理じゃない??
「若者の〇〇離れが進む」と言われることに対して「いや、金がないからだよ」とTwitterで反論される『平成』の時代を、彼らはなんとも優雅に過ごす。
羨ましいなぁ笑
この直後に「大富豪からの手紙」を読んだせいで、平成も愛も、「大金を使う器」のある人間なんだなぁとは思った。
「お金」という悩みから解放されているように見える二人の悩み。
それが「安楽死」。
この本の世界では、「安楽死」が合法化されている。それに対して、大きな違和感はない。ただ、『平成』の間に現実世界で日本が「安楽死大国」にはなれないだろうな、とは個人的に思っている。
ここでも、思う。
なぜ平成は「安楽死」を選ぶのか。
理由として最後に明かされるのが「目が見えなくなることの恐怖」なのだが、それだけ?という思いが半端ない。
そりゃ、愛じゃなくても止めるよ。彼女の言葉を借りよう。
「あのさ、平成くん、バカなの?」
「『平成』という時代を象徴する人」であるとされている平成。『平成』という時代は、まだ聞きなれないような新しいものがたくさん生まれて、死に対する人の考え方も少しずつ変わってきた。それでも、治せない病気がある。それが人を絶望させる、ということなのか。
それなら「安楽死」って、なんで綺麗に死のうとしているのか。
おまけに最後、愛に自分のAIロボットだけを残して消える。生きてるか死んでるかも分からない。
綺麗すぎる。
気持ち悪いくらいに。
セックストイに関する表現も愛が作中で「セックストイは約束の象徴だったはずである。」なんて説明しちゃう。説明いらないよぉ〜と、思わず一度本を閉じた。
エンディング、平成ではない男と愛は長い時間セックスをし続けている。
始まりがおもちゃを選ぶシーンだったから、面白いといえば面白いけれど、おもちゃについてはカスタマーレビューの話まであるのに、実際の彼とのシーンは数行でやっている、という報告だけ。
愛にとって愛情の多い性生活は、平成とのものだった、ということだろう。彼への愛情を短い中で表現した結果なのかもしれない。
老猫ミライについて触れようかと思ったが、どう考えても平成のやり方にドン引きしてしまって、何も言えない。それをなし崩しでも許す愛もよく分からない。
死にたい平成と死にそうなミライの対比と考えても、平成が(というか作者が)無理やりミライを平成側の考えで動かしてしまう(安楽死させてしまう)のだから、対比になりきらない。
固有名詞の乱発。
平成の人生の希薄さ。
愛の愛情。
これらがちぐはぐで、この文量の中でまとまりきれていないように感じた。
もっと長い話であれば、と思う。
平成の人生をまるごと描き切るような作品であれば。
固有名詞ももっと『平成』らしいものをどんどん使って、だんだんと変わっていくものの変化を描いていれば。
一言で言うととっても残念だった。
ただ別バージョンの「平成くん、さようなら」が見てみたい。
病気はないが、お金と人間関係と仕事に悩み続け、死にたい。いろんな制度を紹介してもらえると聞いて、安楽死のカウンセリングを受ける男の話。
彼の名前も平成でどうだろう。
着ている服は全部ユニクロとH&M。ユニクロのヒートテックは洗濯しすぎて、薄くなってる。ヒートテックの寿命をTwitterで知って、凹む。そんな人間の話。
家庭環境には恵まれなかったようだが、お金と仕事と大切なパートナーには恵まれた平成が安楽死する話と対比させれば、面白いかもしれない。