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【お話28 青春に酔い】
「青春の味がする」
チューハイの缶を傾けながら、南が呟いた。
「なにそれ?」
咲良は隣で炭酸水を飲む。咲良も、去年二十歳になっていたが、お酒もたばこも好きじゃない。
お酒のカロリーを恐れ、タバコで肺活量が落ちるのを恐れている。
南は、どちらもそれなりに嗜んでいる。
「いや、なんかさ。レモンサイダーって青春って感じじゃん?」
「南が飲んでるのって、チューハイだよね?」
彼女の手にある筒に目をやる。全
すみません。これ読んでもらっていいですか?
自分の顔は嫌いじゃない。でも横顔の写真を見ると、鼻低いなぁって思う。でも、本当に、自分の顔嫌いじゃない。
ミスiD2022。オンライン面接へ行けなかった。
毎日毎日、気力だけで物語を書いていた。これが私のやりたいことです、とはっきりさせるために。ぶれないために。
今年ミスiDに落ちたら、物書きとして何かひとつ、納得できると思っていた。物書きの友人が「とある賞に応募するために全力で書いて、それ
史緒ちゃんと佐藤さん
初めて【しゅがーちゃん】と待ち合わせをしたのは、ライブハウス近くのコンビニの前。
周りには【リル】のヲタクたちが何人もたむろしていて、その中で彼女は、一言で言えば異質だった。
今、目の間に同じ姿があって、やっぱり異質だと思った。今日はその理由までちゃんと理解できる。
「あ、シオちゃん」
先に向こうが気が付く。軽く上げた手の先に、健康的な色のネイルが施されているのが、見える。
「待った?サトウちゃん
【お話27 お酒とタバコ】
お酒が飲めない。体質的なもので、飲むとすぐに眠たくなる。
そのせいで、大学生の頃はずいぶんとひどい目にあった。
慣れれば飲めるようになる、という言葉を信じて、飲みまくったこともある。
結局、全てトイレに流れて終わったけれど。
男の世界で生きるとためには、酒というものはほとんど絶対必要不可欠なのだ。
飲めないだけで、大半のことがうまくいかない。
そうじゃない世界もあったのかもしれないけれど。
頭もよ
【お話26 逃避と観葉植物】
カラカラに渇いている。
観葉植物が植えられた土の表面に、指を指した。
全く沈むことのないその感覚に、思わず顔をしかめる。
深い緑色の葉をなぞる。
埃で、指先が曇ってしまった。
息苦しいね。
心の中で、観葉植物に話しかけた。
一枚だけ、埃を指で拭い取る。
平日のお昼。図書館の中はそれなりに騒がしい。
年齢が高めの人が多い。
誰も目を合わせることはない。
こんなところでしゃがみ込んでいても、何
【お話25 ひとりと想像力】
あや子がかわいい声で笑っている。彼女の声はよく響く声質で、それがまるで、彼女の自信そのものみたいで、空は苦手だ。
「え、一人で焼肉とか全然余裕なんだけど」
香織と穂乃が、あや子の言葉に、すごいねとかなんとか言っている。
香織は本当に一人で外食をするのが苦手な子だ。なんなら、ゼミの教室で一人でお弁当を広げるのも苦手で、つい誰かを探してしまうらしい。そんな彼女に、あや子が平然と、一人の何が苦手なのか、
【お話23 痛覚と無罪】
腹の奥底に、歪な塊を感じる。
イタイ。痛覚になってようやく、失敗の認識にいたる。いやうそだ。
ちゃんと分かっている。
ご飯の食べる量が、久実はいつもよく分からない。
ダイエットをしていた時は、分かっていたのに。
辞めた瞬間に分からなくなって。
今では食べ過ぎてばかりいる。
ご飯だけなら、まだいい。
ゴミ箱の中には、たくさんのポテトチップスの袋。
どうしてこんなものを食べてしまったのか。
あ
【お話22 私が滲む】
送迎車から外を見る。誰かが電子タバコを吸いだしたらしい。
運転手の人が、低姿勢で「窓、開けてくださいね」と言う。
くぐもった返事の後、奥の方から窓が開く音がする。
数センチだけ開いた窓から、湿った外気が入ってくるのを感じた。
車内には自分を女の子が、4人。男は運転手だけ。
運転手の給料も、私たちが稼いでいる。必然、彼は私たちに丁寧な態度を取る。
車内に流れている、クラブ系ミュージックがうるさい。
【お話21 てんさい】
はーちゃんは気づいてしまった。
これはすごい。
もう一回やりたい。
いや、やらなくちゃいけない。
まずはこっちのはーちゃんの手。
力を入れて、「ぱっ」とする。
「ぱっ」のやり方はこう。ママが教えてくれた。
「ぱっ」をしたまま、この箱をおさえる。
ここまでは、さっきと同じようにできてる。
箱をおさえる手は、さっきよりもしっかりしている。
ぐらぐらしない。
そしてつぎはこっちのはーちゃんの手。
【お話20 軽バンとお彼岸】
午後3時過ぎ。
のんびりとした太陽が傾きかけて、運転席に眩しい光を届けてくる。
古い軽バンのハンドルは、私の小さな手では少し余る。新しいハンドルカバーが欲しいのだが、本来の持ち主はそういうことを気にしない性質なので、何も言えない。アクセルを踏むと、加速はとても楽だった。
軽バンの持ち主は、元々は祖父だった。強面だったあの人は、覚えやすいから、という理由でナンバープレートの数字がずっと「・・・1」
【お話19 皺と薔薇色】
朝、カーテンを開けた窓の向こうに広がる空が、とても高く感じた。
いつも重たくて、しんどい身体が、今日だけは大丈夫のような気がする。
「よく、寝た」
自然と零れた言葉が、自分の心を軽くしてくれた。いい朝だ。
時計代わりにテレビをつける。朝のニュースは、不景気で暗い話ばかりだ。
数日前にやっていた、アイドルの結婚の話が最近で一番明るいニュースのような気がする。
アイドルのファンでもなかった自分にとっ
【お話18 恋をしている】
友達から、恋人の惚気が何度も届く。
返事は面倒だけど、「マコトにしか言えない」と言われたら、拒否もできない。
スマホがピコピコと、間抜けな音を立てる。
薄手の掛布団を顔に押し当てて、無視をした。
たぶん明日、平凡な返事をするだろう。
カウンターに突っ伏していると、ピコリとまた音がする。
「マコト、スマホ鳴ってるよ」
アオイがカウンターの向こう側がから、声をかけてくれる。
ごとん、と重たい音がした
【お話16 私がふらつく】
スマホと同じ高さくらいとヒールを履いて歩いていた。
ドン・キホーテの片隅。
まったく興味のないブランド物のコーナー。
化粧品売り場を歩きながら、アイシャドウのパレットを眺める。
足元が、ふらつく。
魔法少女のおもちゃを買いたいと思った。
変身した後の彼女たちは、高いヒールで、走って跳んで、戦う。
好きな格好で、好きなように振る舞い、自分の信じていることを口にする。
今の私は、好きな格好でもない