2022年、教師に薦める本5選。
久しぶりの更新。最近は、総合学習をどのように進めていくか、ということをよく考えている。
この実践をブラッシュアップしたものになるし、自分の専門領域がふんだんに活かせそうなのもあって、とてもわくわくしている。ちょうど、その総合探究が走り出したところ。
PBLに関係あるものもあるし、ないものもあるけど、直近で読み終えた5冊を紹介したい。
プロジェクト学習とは
PBLという言葉も、身近に使われるようになってきたと思う。Project Based Learning,プロジェクトを通して学ぶ。
慶應義塾大学の伊庭崇先生の論文を読んで、アウトプットから始まる学び(Output-Driven Learning)という考え方を知った。
この考え方に則って、今年度の総合探究を組み立てている。生徒が本の出版に興味を示しているので、それを最終成果物として活動を展開するつもり(Outputが出版本、という感じ)。
当校バージョンに組み直すと、上記のような図になるわけだ。
中でも、この「生徒の声と選択」を今年は大切にしていきたいと思う。地域の魅力を本にまとめて出版したい(しかもそれを売りたい)と言ったのは生徒だ。
教員のプロジェクト、ではなく、生徒や地域のプロジェクトになっていけるとよいと思う。だから、彼らの声を最大限に引き出して生かすつもりだ。
この本を読んでいる中でも、このゴールドスタンダードは参考になった。実践事例も豊富だし、付録のルーブリックもいい。探究を実践したいと思っている人にはうってつけだと思う。
変身
めっきり小説を読んでいなかったけど、伊集院光さんのラジオを聴いていて、この本の名前が挙がった。久々の新訳らしい。100分de名著でも取り上げられたとか。
ある日、不気味な虫けらに変貌した主人公グレゴール。しかし、なぜか彼は職場に行こうとする。それも、執拗に。読んでいれば違和感を感じるはずだ、と訳者の川島先生も解説で指摘している。
そう、彼こそがこの小説の寓意そのものなのだ。グレゴールは、鬱病を抱えているのではないだろうか。
他人事ではないと感じる。私も、慣れない環境や生徒との軋轢などが重なっていたある日、起きたときに体の異変を感じた。呼吸が苦しく、身体が重い。まるで、グレゴールが虫けらに変貌したそれと同じではないか。
精神を病んで、職場に行けなくなった教員。あるいは、教室に通いたくても通えない、不登校の生徒。私もなりかけたから分かる。あれは予兆なく突然、襲いくる類のものだ。
伊集院さんも、学生時代は不登校だったようである。心を病む人々の増加に、歯止めが効かない現代。その出現を予見していたかのような不条理文学だった。
名著たる所以は、現代でも我が身に迫ってくるような内容だからだろう。久々に、純粋な読者として読書を楽しんだ気がする。
スマホ脳
「どうして修学旅行に携帯を持って行ってはいけないんですか?」と生徒に問われた。依存性が高いから、学習の邪魔になる。そう答えた気がする。自分はどうだろう?
iPhoneが鈍い音を立てて震え、私はどきっとする。何の通知だろう……。画面を見ると、スクリーンタイムの文字。「平均時間は○分でした」。
生徒に「メディア(テレビや携帯など)に費やす時間に気をつけよう」と言っておきながら、スクリーンタイムの長さに驚いてしまうことがある。気づくと携帯を触っている自分。依存症じみている。
私が高校生だったとき、携帯電話はまだガラケーだった。そして、中学生から携帯電話を持つような生徒は少なかった。今や、中学生のほとんどがタブレット端末や携帯電話を所持している。
メディアに依存してしまう、そういう人間は多くいるが、大方は「その人が誘惑に勝てず、怠慢なだけである」という言葉で片づけられる。しかし、生物の進化のスピードと、外部のテクノロジーが進化するスピードは異なり、人間が外的変化に適応できていないという視点は新鮮だった。
依存してしまうものであるから、それをどうコントロールするか、という議論をしたほうがよい。そう思わされる本だった。続編もあるらしいが、これは未読。
学校のリーダーシップをハックする
1人1端末の学校が実現し、学校現場は一気にデジタル化した。しかし、社会の趨勢というか、時流に追いつくには距離がまだあるように感じる。その理由は何なのだろう。
GIGAスクールという言葉が定着したのも束の間、最近では教育DX(学校DX)という言葉が聞かれるようになってきた。
DXの原義はこういうことらしいので、教育現場に当てはめてみる。
デジタル・トランスフォーメーション。トランスフォーム、変革がキーワードである。この変革が文化として根づいているかどうか……というのが、学校と社会の乖離を生んでいる要因だと思う。
企業間は競争があるから、絶えず新しい考えを取り入れながら、文化や風土をアップデートする必要性に迫られる。市場原理が働くことによるメリットは、そういうところにあると思う(日本の公教育には、そういった市場原理は働かない。結果を出しても出さなくても、もらえる給料は同じ……)。
この本は、校長や管理職、学校運営に関わる人など、これからの学校組織を牽引するための資質能力を、ハック(粘り強く改善し続ける)するための方法が多く書かれている。中でも、SNSの活用がしばしば取り扱われている。
例えば、各学級ごとにTwitterアカウントを開設して、教員や生徒がツイートする。また、学校専用のハッシュタグをつくり、検索できるようにしておくなど、学校での教育活動を広く知ってもらうための方策が多く書かれている。
学校のHPを閲覧するのは、ごく限られた人々である。一方、SNSは不特定多数に向けて発信する。関係者は抵抗感を覚えるかもしれないが、生徒を守るための議論と対策を講じた上であれば、有効に機能するという。生徒がメディア・リテラシーを体験しつつ身につけることができるし、大人からの助言を受けながらSNSの使い方を実践的に学べる利点もある。
先にも述べたように、今年、本づくりのプロジェクトを帯単元(的な枠組み)として実施している。生徒の作品を収録した本を出版する、というゴールだけ示して、あとは生徒と話しながら決めていく。万が一、乗ってくれる生徒が本格的にプロジェクトチームを結成してくれたら、広報手段としてSNSを活用したり、クラウドファンディングを実施したりするかもしれない。
苫野さんの言うように、プロジェクト型の学びが学校のベースになるとしたら、インターネットやメディアとの付き合い方は学んで然るべきだと思うし、広報力やデザイン力、人に訴えかける情報編集能力は、社会に出てから確実に生きる。
この記事でも書いたけど、今の学校はブラックボックス。中で何が行われているか分からないから、それは暗に「子どもを育てるのは学校だけの仕事」というメッセージを発信し続ける。その囲いこみこそが、生徒の学びを阻害していると思う。
校長と聞くと、「いつも校長室にいて、事務仕事や電話をしている」「集会や表彰のとき話す、偉い人」というイメージをもつ人も少なくないと思う。学校の透明性を担保するとともに、校長先生という人物・仕事をオープンにすることが、学校の学びを促進するのだと思う。
ピア・フィードバック
効果的なICTの利活用によって、本格的な新しい学びの創出に向かう学校も増えてきた。私も、デジタルを生かした学びは今年のテーマにしたい。
そこで、先輩から「読んだ方がいいよ」と言われてこの本を即購入。特に、タブレット端末を用いたフィードバックについて、この本に詳しく書かれていた。
過去に、ChromebookでGoogle Classroomを使っていたことがある。それこそ、本書で紹介されているような方法でフィードバックを行っていた。Googleドキュメントに生徒が書き込み、それに毎時間コメントをつける形。
コメントはスレッドとして残るので、生徒と双方向的なやり取りもできる。Google Classroomは、教員からの一方的な発信に終始していたので、クローズドなSNSとして活用できたらよかったと思う(今はApple系列を使っているので、いつかリベンジしたい)。
ただ、本書ではこんな指摘もある。
確かに。「コメント読んだ?」と訊くと、「はい」と答えるものの、効果的に機能しているかどうか、さらに突っ込んで訊いてみないと分からない側面がある。デジタル(画面上)とアナログ(対面)の二刀流が、カンファランスの肝になりそう。
Apple Classroomは一方向的な発信になってしまうので、今はRW/WWの終わりに作家ノートの写真をAirDropで生徒から送ってもらい、それにデジタル上でコメントをつけてAirDropで送り返す…というサイクルを確立している。
ハードはiPadで、ソフトはGoogleが現時点で最強な気がするな。AirDropや写真と動画撮影がiPadだと捗るし、インタラクティブな空間が生まれるGoogle Classroomは必須。個人的な感想。
もう少しで大型連休
明日、学校に行けば次の日からGWが始まる!3月から一般社団法人こたえのない学校が主催する、Learning Creator's Lab(LCL)の6期として参加していて、大型連休中も学ぶ機会が多くありそう。
4月から新年度で落ち着かなかったので、また学ぶ時間が確保できそうで嬉しい。これを読んでいるあなたも、読書で学びつつ息抜きしてみては?
あと少し、頑張りすぎない程度に頑張っていこう。
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