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イトウさんと同棲していた日々

イトウさんと出会ったきっかけは、不慮の事故

『自宅付近で、イトウさんがコンクリートに頭を打ってしまったらしい』と、知り合いが私に連絡をくれた

イトウさんの存在は知っていたけれど会ったことはなかった
北海道のある場所でしか会えない、と言われている幻の存在だそうな
授業が終わると、いつもの橋を渡り田んぼの横を通り、知り合いの家に駆けつけた

噂どおり、大きなからだをしたイトウさんは机の上で横たわっていた、まだきらめいていた、駆けつけてよかったと思った

その夜はみんなでイトウさんを囲んで、日常が急に宴みたいに楽しい夜だった

良い気分になった帰り際
『イトウさん、いいダシ出るよ』
と言われたので、イトウさんの頭を思い出として持って帰らせてもらった

ひとまず、冷たいところが好きだろうな、と思い冷蔵庫に入っててもらった

次の日は日常が戻ってきて
ついイトウさんと同居しているのを忘れていた

またその次の日、冷蔵庫を開けるたびに、イトウさんと目が合うので、思い切ってお味噌汁のダシにしてみた。
しかし、どうしても数日空けてしまったせいで独特の匂いが消えず、イトウさんを嫌いになりそうになった。
そこで急遽、路線変更!カレールーを投入した

一人暮らしを始めたばかりの私にとってカレールーは、お味噌汁の残りに入れたって、ちゃんとカレーになってくれるから、なんでも包み込んでくれる包容力のある相棒だった。
はじめからカレーを作ろうと思って作ったノーマルカレーより、変な料理にカレールーを入れた方がパワーアップして奥行きのあるカレーになる気がして、最後にはこいつに頼めばどうにかしてくれる、と絶対の信頼をおいていた。

はずなのに、私の頭と同じ大きさのイトウさんの頭は存在感があまりにも大きく、カレールーでは太刀打ちできなかった。
このあとの数ヶ月間、カレーを食べるといつも鼻の奥でイトウさんを思い出すようになり、くっと涙ぐんでしまい、イトウさんともカレールーともちょっと距離を置きたい感じだった。

最近ふと、あの日々を思い出して、イトウさんがイキイキしている時にカレールーと会わせてあげていたら、と考えてしまうけれど
再びイトウさんに会うことが叶うなら、きらめきを失う前に、カレー味なんかにせずに、一番美しい時の姿を私の中にお迎えしたいと思う。

六畳一間のキッチンにいる煌めきを失った
イトウさん

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