カバー曲のオススメ:Electric Light Orchestra "Roll Over Beethoven"

他人のカバー曲で売れるというのには自分の曲を成功させるのとは異なる難しさがあります。「模範解答」がある以上、どうしてもオリジナルと比べられてしまいます。そもそもリスナー(それもオリジナルを熟知している)はあらかじめ「まあオリジナルには叶わないだろうな」という先入観で作品に触れるので大変にハードルは高いです。

歴史に名を刻んだアーティストの多くは先人の歌を学び自分のカラーを足すことでキャリアを前進させてきたので「良いカバー」は枚挙に暇がないですが私が特にオススメしたいのはロックンロールの巨匠、チャック・ベリーの代表曲、"Roll Over Beethoven"のエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)によるカバーです。

まずは1956年発表のオリジナル版。

ジャンル的には現代のポップスの主流の「ロック」ではなくその源流に当たる「ロックンロール」。今聴けば古さや物足りなさしか感じませんが、今も昔もロックンローラー(日本ではこの二つは同一視されがちなので敢えて使いました)の教科書のような曲です。
タイトルに代表されるテーマも秀逸で、「ベートーベンは(墓の中で)ゴロゴロしてチャイコフスキーに伝えろ、時代は(クラシックじゃなくて)リズムアンドブルースだってことを」という一節があります。
これは"roll over/turn (over) in one's grave"という慣用句に基づくもので、故人がもし生きていたならば(墓の中で安らかに眠れないほど)ビックリするもしくは怒るほどの出来事があった時、例えば文法が酷い英語に対して「(英文学のボスである)シェークスピアも浮かばれないね」といった具合に使います。
話を戻すと、音楽と言えばクラシック(現在も一部の特にアカデミックな年配の方は譲りそうにありませんが)という固定観念に音楽・歌詞の両面に挑んだ革命的な曲です。この時点で既にハードルは高いですね。

続いて最も有名なカバーだと思われるビートルズバージョン(1963年、セカンドアルバム収録)。

ご存知の方も多いと思いますがビートルズはグループ結成前からチャック・ベリーを信奉しており、オリジナル曲が増えてからもライブのセットリストに1964年頃まで残っています。
リードボーカルはジョージで、まだソングライターとしては成長中であった彼の持ち歌的な側面もありました。持ち前のさっぱりしつつ芯のある声でしっかり大先輩のヒット曲をモノにしています。
そしてベリーの曲の予言を的中させるが如く、ビートルズは成功し、いよいよロックは音楽シーンのど真ん中に躍り出ましたね。

では長くなりましたが本題のELOバージョン。
こちらは1973年発表の2枚目のアルバムに収録されています。イギリス出身のELOのアメリカでのブレイクの先駆けとなった曲で、現在でもライブの最後を飾ることが多いグループの代表曲です。

最初に聴いた感想は「たった10年で何があったのか」です。
気づけば7分を超えてプログレになってしまいました(単純に60年代後半~70年代前半のロックの進化が凄すぎます)。
冒頭でまさかのベートーベンの『運命』、が流れたと思うと威勢良くギターが突っ込んでくるのが極めて痛快ですね。しかも途中でちゃんとストリングスの見せ場があるし。
ロックでクラシックに挑むというオリジナルの野望はビートルズで叶えられたものの、曲の中で新旧を同居させ、戦わせるという斬新な切り口には感服するばかりです。カバーの域を超えたカバーです。

因みにELOリーダーのジェフは後にチャック・ベリーを見かけたそうですが、カバーを快く思ってくれないのではと怖くなり話しかけられなかったそうです。
ロックンローラーという短命なイメージがつきがちな職業の元祖であるチャック・ベリー本人が90歳まで生きたというのも皮肉な話です。

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