ドラマ『DASADA』の面白さ

2020年1月から3月にかけて放送された日向坂46の学園ドラマ『DASADA』。
あくまでアイドルのドラマなので作品としてあれこれ求めすぎるのも酷ですが、考えるのがかなり面白かった部分もあるので紹介します。
※重要なネタバレを含みます

ほぼ渡邉美穂さんのドラマ

このドラマは小坂菜緒さんと渡邉美穂さんのW主演と考えていいでしょう。
主人公はグループの看板でもある小坂さん演じる佐田ゆりあですが、物語の中で最も葛藤と成長を経験したのは紛れもなく渡邉さん演じる篠原沙織でした。特に後半は実質渡邉さんの独壇場ですね。
『DASADA』の一つの面白さはアイドルたちが普段と違うキャラを演じていることですが、「情熱的」「グイグイ行く」「妥協しない」のイメージを持たれがちな渡邉さんに限ってはかなりしっくりくるキャスティングだったのではないのでしょうか。
以前から演技面は評価されていた渡邉さんですが、彼女のアイドルとしての仕事とも共鳴する部分が多く思えた篠原沙織は当たり役だったのではないでしょうか。

FACTORY

沙織が「本物」として憧れていたユニットFACTORY。
中でも有名人の名言を引用するリーダーおちょこは(引用の)引用という形でしばしば沙織の会話に登場します。
メンバー名のおちょこ・ぐいのみ・トックリンの由来はお猪口・ぐい吞み・徳利というお酒を嗜む方ならばお馴染みの容器ですね。
名言引用、そして女性メンバーにつけられたお酒関連の芸名はFACTORYの正体にまつわる伏線でした。
FACTORYの着ている衣装、踊っている踊り、歌っている歌は一つとして自分たちのものではなく、どこかの大人のプロが彼女たちを売り込むために作ったものです。リーダーの放つ名言も引用なのです。結局3人とも大人の言葉という「お酒」を振る舞うためだけの「容器」に過ぎません。若者が大人、特にお酒を好みそうな中年以上の男性に媚を売らなければ生きていけない芸能界に対する風刺も効いています。
いや、トックリンが作詞をしているではありませんか?しかしどこかで大人のメスが入ることで真に彼女の言葉ではなくなっています。そんな大人の思惑を反映した「自分の言葉」を言わされる彼女は正に中継ぎ(注ぎ?)的な「徳利」と言えるでしょう。言葉を紡ぐ彼女にとって自分の真の言葉を聞いてもらえないどころか、偽物を押し付ける役割まで背負わされることは想像を絶するほど辛く、彼女自身が(方言という理由が用意されてはいましたが)口数が少ないのも頷けます。
「偽物」づくしのFACTORYのリーダーにデザイナーセンスを買われ、スカウトされた沙織。「サカズキ」というコンセプト通りの芸名を貰いますが、自分のデザインを使ってもらえずすぐに辞めます。
ちなみに現在ではあまり使われず文学にしか登場しない印象が強い盃ですが、これから才能を発揮しうる沙織に通じる気もします。

「本物」とは何なのか

どんな分野に進んだとしても沙織のように「本物になりたい」という欲望は誰にでもあるものです。「本物」とは平易な言葉を使えば「誰もが認める第一人者」であり、不動の地位と名誉が伴います。ドラマではFACTORYがこれに相当していました。FACTORYがDASADAを認めたお陰でDASADAの人気が出たことからもその影響力は絶大ですね。
ところが沙織を迎え入れたFACTORYは彼女の思い描いた「本物」ではありませんでした。途中加入した彼女に取って空虚なものどころか、これから花開いていくはずの彼女の才能を潰しかねない危険な環境でした。
現実の私達の社会でも自分のやりたいことをやり、才能を存分に活かして生きている人はごく僅かで、ほとんどの人は何かしらの妥協をして「本物」を諦めています。
FACTORYの3人による挿入歌「ナゼ-」は疑問を持って考えることが(答えを急ぐよりも)大切だというメッセージが込められた曲であり、「偽物」でもやっているうちに「本物」になれると信じ奮闘するFACTORYメンバーにぴったりです。
結局沙織やゆりあたちは「本物」になることはお預けにしてDASADAの活動を休止にし、それぞれの夢を追いかけていきます。多感な高校時代に疑問を持ち、考え、互いに衝突し、青春の一部を捧げた彼女たちはDASADAという過程を通じて確実に成長していました。「ナゼ-」はDASADAメンバーに通じるところもあるといえます。
簡潔に言うと「本物になるための努力がキミを本物にするんだ!」ですね。

最後に

軽く『DASADA』について分析しましたが、アイドルたちのドラマの登場人物としての虚構が日向坂46としての虚構を更に深めることになったようです。(主題歌「青春の馬」がその代表例です)何度も見るドラマかと聞かれれば答えに困りますが、おひさまでなくとも一見の価値はあると思います。

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