支援という言葉が限界だから、「ウェルカム」って看板に書くことにした日。
今日は、ひたすらワタクシゴトを書き綴る。独り言に近いが、もし読んだ方にとって、もっと事業を伸ばしたいんだとか、今のプロジェクトを次に展開したいんだ、と気軽に投げ込める場所になれたら、という願いを込めて。
僕は、SENDという生産者さんとシェフを繋ぐ流通物流サービスの創業者だ。2014年に創業して以来、幸いサービスも伸び、2019年のちょうど5周年記念日に退任&エグジットさせてもらうまで、いわゆるスタートアップとしては一通りの経験をすることができた。
その前は、もっぱら投資ファンド等で、投資や事業支援を手掛けていた。大きな案件に投資したり、その投資支援先が回復して良い形で伸びたりすると、自分の実績や手柄のようにも思っていた。しかし、いざ起業してみると「分かっていたようで、まるで分かっていなかったこと」や「理屈も手順も分かるが、実現するところの人の課題」に向き合うことになった。
思い知ったのは、創業初期や事業が小さい時こそ、経験者が必要だ。ということ。
創業することは、素人が山に登るようなもの。リーダーは素人ながら、山頂を目指して突破していくだけの情熱と体力はある。しかし、数々の難題にぶち当たっていくたびに同じく素人のメンバーは怪我や転落をし、リーダー自身も削られ続けて疲弊し、パーティ全体のサポートしながら進むのは困難を極める。
特に高く険しい山を目指すなら、山岳ガイドやサポートチームは必要だ。反対に、プロがいれば、珍獣ハンターイモトだってマッターホルンを登れるのだ。
しかし、プロの山岳ガイドにお願いしたことすらないから、そもそも頼み方も分からないし、お金がかかるから自力でなんとかしよう、と思ってしまう。お金があってもスポンサーがいても、できないことはできないのに。そのお金を必要な人に使えなければ、「ムダ使い」になってしまうのだ。
山を登るのだから、チームは小さい方が良い。
そんな時、人はつい、人数がいればなんでもできるように思ってしまう。群れるとも言う。しかし、幼稚園生が100人いてもエベレストには登れないし、素人100人が二人三脚で走ってもアスリートのように早くは走れない。山に登るならパーティは小さい方が良い。
目標、目的と、手段が合っていないのだ。
マンガやゲームの世界をメタファーにすると、魔王に普通の人間の軍隊で向かって行っても敵いはしない。やはり経験値豊富なサポートがいる、少数精鋭パーティで挑む方が良い。
リーダーは頼み事がニガテな人が多い。リーダーが泣き言を言うことを許さないメンバーも多い。
そうは言っても、若く血気盛んなリーダーは、なかなか頼るのが得意じゃない。お願いしてるつもりが命令のようになってしまったり。そもそも実績がある人を引き入れる経験が少なかったり。劉備のように諸葛孔明を「三顧の礼」で引き入れるなんてこと、なかなかできることじゃない。
そんなリーダーの取り巻きも、時に残酷だ。「あなたについて行きます」という言葉や姿勢が、リーダーを苦しめていることに気付かなかったり。自分達の理想と違う、と勝手なことを言い出したり。自分の実力不足は知りながらも、自分達の上に誰かが入ってくる事には抵抗があったり。
こうしたメンバーの大半は、血反吐を吐きながら山を登りたいわけでも、ホンキで頂上に旗を立てたいわけではない。「あの山に登る、イケてるパーティらしいよ?」とか「あのパーティは、優しいし、条件良いらしいよ?」に惹かれて参加する傾向も強い。採用コミュニケーションの問題でもあるのだが、そういう組織ほど内部はぐちゃぐちゃになる。
確かに、多くのリーダーはビジョナリーだし、一般人よりはかなりスーパーマン寄りだけど、それでも「人間」。できないこともあるし、耐えているだけで苦しんでるし、人一倍ウツにもなる只の人だという認識の方が遥かに大事だ。
高い山を登るには、リーダーもメンバーもお互いが素人だしチカラ不足だよね、という認識を共有できるか。自分達だって必死で努力や経験も積むけど、実現したいビジョンやミッションさえ合意できれば、次はシンプルだ。
できる人、経験のある人を入れて解決しよう、というパーティに。
僕の場合、とりわけデザイナー、エンジニア、バックオフィスみたいな専門職から、まずはプロフェッショナルにお願いした。彼らは「その仕事で独立したくて、かつ、仕事ができている専門家」だ。雇用である必要もなく、委託契約や有期契約でも都合が良かったし、兼業兼務なんて(当たり前過ぎて)議論にすらならなかった。おかげでストレス減るし、安心して進められたことが、サービス成長に繋がったといっても過言じゃない。
僕は当時、とにかく生産者とシェフの声を聞き、仕組みを設計&アップデートすることにフォーカスしたかった。ビジネス・デザイナーとしてそこに集中できる、人任せにしない(できない)ということが大切だった。
代表イコール経営者(管理職)である必要はなく、代表がデザイナーだったり、職人だったり、アーティストであっても良くて、経営実務は長けた人が判断する体制にしたって良いのだ。
しかし、そんな人なかなかいないし、出会えない。という現実。
本当に必要な人、本当に任せられる人に出会えなくて、僕もすごく苦労した。小さいうちはもちろん、大きくなっても自分でやる羽目になり、おかげで経験値はついたのだけど、誰か助けて!といつも思っていた。
心あるスポンサーさんとかも「相談乗りますよ」とは言ってくれるのだけど、話している内容自体は、何度も何度も自分で反芻したり、社内で議論してきたことを越えはしない。もちろん聞いてもらうだけでラクにはなるのだけど、「○○したら良いんじゃない?」は、残念ながら解決や支援にはならなかった。
結局、やってもらえる人と出会えるか。
そこに尽きるのだけど、もともとすごくレアキャラな上、比較的大きくなった会社に参画したり、投資支援はするけど実務には入らなかったり、また自分で新しいパーティ作って始めたりする。「本当に彼らを必要とする、初期フェーズの小さな組織」を支援する人は少ないのだ。
必要なところに必要なリソースが回り、ムリが減る世界に向かって。
チカラも経験もある人が、チカラもリソースもない人の支援になかなか回らない。うまく行っていないところには支援が来ない。相談すらウェルカムされない。
これは、あらゆる世界で起きている。
世の中にはアクセレレーターなど、出資⇔資金獲得と、その後の急成長を目指す仕組みも沢山ある。それらは「投資案件の発掘」を目指すVC業界が牽引してきたこともあり、急成長が見込まれないものや、出資による急加速が最適解でないものは対象とみなされない。
結果として「デカい山を登る、登れるポテンシャルあるパーティ」のフリをし、期待してもらわなければ、リソースは集まらない。これは「挑戦への意思表示」でもあるのだけど、同時に「期待と現実のギャップ」という苦しみの始まりとなる。
起業家も自分がムリしてるの、はじめから分かっている。しかしVC業界が作ってきてくれた仕組みしかマトモな資金調達手段がないし、それがサクセスストーリーの中心にあるということもあって、ムリするしかないのだ。
なんかこれ、学歴社会みたいではないか。
みんな大学行かないと成功(挑戦)の土俵に乗れません、みたいな世界観。新しいことを起こしたい人は全員、エベレスト登ってみせます!宇宙行ってみせます!なんて言わなきゃ支援が受けられないのは、やはりツラいのではないだろうか。
急成長や急拡大はしないが意義があること、すぐにはマネタイズしないが欲しがる人はいる多様なプロジェクトにも、適切なタイミングで、適切なサイズや手段で支援が付く世界にしたいと、僕は思い始めている。
インキュベーターやエンハンサーとなるにあたって。
この半年、僕よりもずっと若い世代のクリエイターや起業家さん、研究者さんと対話することが増えた。一方で、大企業さんや中堅企業さんからも、新事業や社内プログラムを始めたい、既存事業を抜本的に変えたい、手伝って、と話ももらうようになった。
どちらも聞いていると、つい「あーしてこーして、これなら解決できるな…」と実務を考えて→やりたくなって→やらせてもらって→感謝してもらえる→対価はいろいろ、なんて経験が楽しくなってきたところだ。
そんな時間を過ごしつつ、気付いたことがある。
僕は支援のつもりではやってない。「この人たちの、このプロジェクトが広がったらアツいな!」「この難局、乗り越えられたら楽しいな!」「こんな新しいこと、できるな!」だけでやっていて、ある意味、当事者意識で参加させてもらえる方が心地良いのだ。
むしろ「支援してください、支援してあげる」というコミュニケーションや、リソース調達を主眼としたコミュニケーション自体がミスマッチを生んでいる。
面白い、しびれる話をしよう。
ウェルカムだよ。
から、単純にスタートできないものか。
彼らの考えるプロジェクトは、行く先を見てみたいものばかりだし、社会や組織を変える契機となりそうなものもゴロゴロある。必ずしも急成長を目指さないものや、芽が出るまで時間かかりそうな、シビレるものも多い。事業規模もマチマチだし、法人化すらしない方が良いもの、インターナル(組織内部)なものだってある。
そのどれにも共通することは、人や時間やコストをかけずにできることを増やし、足りないリソースは出資に限らず集めること。企業、個人、自治体から、取引、提携、連携、協力、後援、協賛、寄付、融資、あらゆる手段が設計可能だ。
今僕は、こうしたインキュベーション(生み出す、孵化させること)やエンハンスメント(広げたり、強めたりすること)を純粋に、ワクワクしながら楽しんでいる。もっとやりたいから、年明けから、新しいインキュベーターも本格始動させることにした。
サービスやプロダクトの開発はもちろん、調査・研究でも、出版・制作活動でも、教育や社会活動でも、あらゆるプロジェクトが立ち上がり、適切なスピードやサイズで広げていける社会にしたいから。
研究者、活動家、クリエイター、起業家、研究機関、事業会社…未来を見てるあらゆるプレーヤーにとって、とりあえずウェルカムだよ、と伝えたい。キクチ達にはぶっ込んでOKらしいよ、という看板が立つまでがんばるつもり。
「面白いから一緒にやろう」「困ってるから一緒に考えて」ってぶっ込んで良い相手、インキュベーターやエンハンサーってそういう存在だ、という新しいスタンダードを作りたい。
ということで。皆さんも、いつでもフォローやDMお気軽に。ぶっ込んでみてください。
面白いプロジェクト、お待ちしています。
https://twitter.com/Shin_Kikuchi
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