夫がロマンチスト
結婚とは、多くの人にとっては法律婚を指すのだろう。
先日、同性婚を巡る訴訟のニュースを夫が私のLINEに転送してきて、自身の意見を述べてきた。曰く、夫の意見を要約すると、「お互いが好き同士で一緒に生きていこうと決めたのなら、それ以上に何が必要なのか」ということだった。
対して私は、お互いを好きであることはまずもっての前提であって、あえて法律婚をしたいというのであれば、それなりに理由があるのではないか、という話を返した。
たとえば相手が倒れて緊急手術を受けなくてはいけなくなった時、結婚をしていない私が相手の命に関わる選択をできる立場なのか。
私が死んでしまったときに、相手に家族同等の遺産を残すことができるのか。
自分としてその人の今の人生に肉親以上に大きく関わっている自負があるにも関わらず、私よりもその人の両親や兄弟の意見が優先される事態が起こるのではないか。社会的に認めてもらいたい、とはそういうことなのではないのか。
なぜこんなことを思うのかと言えば、私自身が夫と結婚をするかしないかを考えた時に、そういうことを思ったからである。
この人に何かあった時に、私はご家族に紛れて、その他大勢の中の一人としてお見舞いに行ったりすることになるのか。そんなの耐えられない。少なくともここ数年、この人の晩御飯を作っているのは私なのだ。
冷めた言い方をすれば、私が結婚したのもそういう恩恵にあずかるためで、逆にいうと、そういう嫌なことがなければ、うだうだと結婚を先延ばしにし続けていたのかもしれない。
https://www.marriageforall.jp/marriage-equality/
仕事から帰ってきて2階で洗濯物を干している時に、夫が居間からやってきて昼間の私のLINEについて苦言を呈してきた。
「あのLINEは送らない方が良かったよ。制度のために結婚したなんて言わないでほしいわ。」と。
「いやいや、私もただ制度を利用したくて結婚したわけじゃないよ。あなたが好きだから結婚したんだよ」という話をすればするほど、「なんか言えば言うほど嘘っぽい」らしい。どうした夫よと思うが、とにかく私は夫にショックを与えてしまったようだ。
階段を下りながら自分の意図を説明している私に向かって、先に階段を下りていた夫が振り返って言った。
「俺はみーちゃんのことが好きで一生一緒にいたいと思ったから結婚したんや!」
うん、これは本当にひどい。人は年齢ではないけど、彼は今年46歳である。
ちなみに、「だから結婚したんや!」と言っているが、夫は関西人ではない。東京生まれ東京育ちだが、勢いに任せて何か言いたいときに関西弁を使う男なのだ。
そのあと、二人でネットで「結婚 決めて」とか、「結婚 理由」とかで検索したところ、検索の仕方の問題が大いにあるのだろうが、「辛い時にそばに居てくれた」が男女ともに1位のランキングがあって、それはなんだか二人とも「うん?」だった。「辛かった時に一緒にいてくれた」ことではなくて、「相手が辛い時に一緒にいたいと思った」時に結婚した方がいいのではないか、というのが我々二人の共通意見であった。
ちなみにそのランキングの男性の7位は「笑顔がかわいい」で、私は「それは結婚の決め手になるの?付き合う決め手じゃなくて?」と思ったが、夫は「なんかわかる」らしかった。・・・・え?
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000096733.html
「いや、結婚してる人の8割はただ好きで結婚してると思うよ。そうじゃなかったら世の中どうかしてる。」
おいおい夫よ、お前はロマンティックが服着て歩いてんのか。
「世間体とか、経済的なことで結婚する人ってゼロじゃないけど、大多数じゃないだろ。ましてや制度で結婚するやつなんて。」
たぶん、制度の恩恵にあずかるために結婚したんだと私が言ったことは、これからしばらくは言われることになるのだろう。めんどくさい。でも仕方ない。私の夫はどうしようもないロマンティック馬鹿野郎なのだから。
でも、夫が馬鹿だったから私は結婚できたのだ。
「馬鹿じゃなかったら結婚なんかできないよ。」
夫が馬鹿でよかった。そして私たちは幸運なことに、その恩恵にあずかることができている。
私が今の制度を利用できない立場だったら、それでも誰かのことをどうしようもないくらい激烈に好きだったら、やっぱり私は制度を求めるんじゃないのか。だって私は、夫に言わせれば多少頭が良い方の人間で、そういう安心がほしいと思うタイプの人間だからだ。
でも、そんなちっぽけな不安を吹き飛ばすくらいの好きが私を襲ってきて、前後左右が分からなくなるような一世一代の恋ができたら、それはそれで幸せだと思うのかもしれない。とはいえ、そんな恋をしたら、体が空中分解して地上に戻ってこれなくなりそうだから、結婚どころの騒ぎじゃないんだろうけれど。