
「よくぞ言ってくれた」忘れられない例え話
私がこの10年のうちで、もっとも感動し、忘れられない例え話をあなたにも共有したい。それは、子育てがどんなものかを的確に伝える例え話だ。
もしあなたに今、10秒の余裕があるなら、どんな例え話か予想してみてほしい。
子育てとは・・・
種から柿の木を育てるようなもの?
鏡に映った自分を見つめる時間?
サウンドオブミュージック?
発見と驚きの船旅?
私が感動した例え話は、アメリカのドラマの中に登場した。
「グレイズ・アナトミー」というドラマで、医師たちが仕事と複雑なプライベートに奮闘する物語だ。20代の頃にDVDをレンタルして見始め、サブスク時代になった今も見続けている。主要な登場人物たちがどんどん死んで、新しい登場人物がストーリーの中心になり、あまり感情移入できずにもやもや。やっと好きになってきたと思えたら、その人物も死ぬか舞台を去っていく。そんな息の長いドラマである。
該当シーンを見返してみよう。
病院の搬送口で、救急車の到着を待つ間の医師同士の会話だ。
寝不足気味の男性医師オーウェンが、自分の子どもが夜に起きたことを愚痴り、子育ての先輩である女性医師ベイリーにアドバイスを求める。
オーウェン「ゆうべ、レオが寝てる時寒そうで暑さ対策をしたら暑くし過ぎて起こした。タックはいつ頃からぐっすり寝た?」
ベイリー「(怪訝そうに)私に助言してほしいの?」
オーウェン「他に相談する人がいなくて」
ベイリー「ブラック・レイス・ウィーバーっていう蜘蛛のことを知ってる?メスは50から100個程度の卵を産む。子どもが孵化して成長すると巣をたたいて自分の所に呼ぶの。押し寄せた子どもは母親に襲いかかる」
側にいるインターン「・・・(眉をひそめる)」
ベイリー「体に牙をさして内臓をドロドロにした後、吸い尽くしてしまう。母親の体を栄養にするってこと。親は干からびて死ぬ運命!子どもたちの犠牲になる。それが子育て。以上、私の助言」
オーウェン「・・・ためになったよ(苦い表情)うん、どうも」
救急車が到着する。
(グレイズ・アナトミー シーズン14 エピソード23)
50秒ほどのシーンだったが、私は膝をたたいた。
「そうよ、ベイリー!よくぞ言ってくれた!子育てって、まさにそんな感じ。私は今、ブラック・レイス・ウィーバーなのね」
育児中は、体力を使い果たす。精神力(主に意志力)を消耗する。出費が増える。仕事以外の時間をほぼ奪われる。
だから「親は干からびて死ぬ運命!子どもたちの犠牲になる」とは、その通りである。
誤解をしないでいただきたいのは、私はベイリー側ではなく、オーウェン側の人間だということ。私も、経験の浅い親として、その過酷さに愚痴を言いたかった。
夜中から朝にかけて、たびたび目を覚ます娘。私が就寝から目覚めまで外的要因に起こされずに眠れたのは、いつが最後だろう?
こども園では帰り支度に手こずり、遊戯室でトランポリンを始め、やっと外に出られたと思ったら園庭で遊びだす。車に乗せるまで30分かかることもザラだ。コントロール不可。
食事は、娘が食べられる料理だけを作る。食べやすい硬さで、食べやすい大きさにして、塩分も薄めにする。大人向けの料理を出して娘に慣れてもらうのも手だけれど、ほとんど手をつけずに残されたり、お腹が空いたと夜中に騒がれたりする方がきつい。
おむつが取れても、トイレには毎度付き添わないといけないし、なんなら漏らさないように「そろそろトイレいかない?」と声がけもする。
娘が3歳になった今、私の子育ては、新生児の頃と比べて70倍は楽になった。それでも、まだ全身にギプスをはめられていて、ロボットのようにぎこちなく動いている感覚がある。このギプスが取れる日は?全身が軽くて柔らかくて、どこまでも走っていける。そんな感覚が戻ってくる日はいつ来るの?ベイリー。
「親は干からびて死ぬ運命!」そう言ってもらえたら、吹っ切れる。
「そっか、そうだよね。私ったら、何を求めていたんだろう!アハハ」
上手い例え話は、人を救う。
「よくぞ言ってくれた」
「そうよ、まさにそれなの」
漠然とした事柄や、自分でもつかみきれない気持ち。それらを他人が言語化してくれた時、人は感謝を超えて感動すらする。
ベイリー先生、ありがとうございます。そう、子育てはそんな感じなんです。
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