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【詩】錨をおろして

きみはいつだって
水平線の向こうに目を見張って
何かが現れるのを
待っているね

青い帆にほどこされた金色の刺しゅうが
ぬるい風を受けて
弧を描くようにして膨らむ
まるで
力を抜いたら 二度と立ち上がれないような
そんなはりつめた姿で
海を一人で渡っているんだ

ねえ
僕の港で
錨をおろして
羽を休めて

僕の隣で
帆をゆるめて
その刺しゅうを手で触らせて

僕の前を通り過ぎる
色とりどりの船
ただ一度きりの航海は
まったく違った姿をしている

昼の群島を過ぎる
あちこちに進む船の中で
きみは 頭一つ抜きん出ようと
美しい帆を
つま先立ちで張っていた

風が強まって
君が背を向けたときに
覗いたマストは 細かった

だから
僕の港で
錨をおろして
羽を休めて

僕の隣で
帆をゆるめて
その刺しゅうを手で触らせて


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