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【詩】領土・散歩・交差点で・短歌
領土
ちいさな四角の、ランチョンマットを敷く。
なんの特徴もない机の上を切り取る。
オレンジの領土が生まれる。食事のための領土が。
ちいさなマグカップと、ソーサーを置く。
一粒の水気もないつやつやとしたくぼみ。
オレンジの領土に、建築が築かれた。住まうための空間が。
ちいさな包装をほどいて、マグカップにお湯を注ぐ。
仕上げにシナモンのパウダーを多めにかける。
オレンジの領土に、ものが住まう。
なみなみにできたチャイ・ティー。湯気が眼鏡を曇らせる。
領土はよろこびに満ちている。
それは特別なことだ。
それは格別なことだ。
***
散歩
朝の坂道をすれ違う
人は、半袖を着ている
家屋の脇を通るたびに、影に足を浸す
僕は、フリースのジッパーを上げる
11月の陽だまりで
寝転がる人びと
いちょう並木の木漏れ日が
乾いた風と祭りの音を差し出す
空気は縦に長く
木々の突端が天幕に届きそうなところで
地に落ちた葉を拾っては
頬に貼り付ける女性
ときどき
ひどく場違いな気持ちになりながら
ある場所を探しているような
フェンスに足を乗せて
靴ひもを深くしばる
そのときに
かがんだバッグの隙間から見えた街の
目的と所在のなさに
ひとつの物語も
入り込めないような外れた思いの
かけらを たどって
また、路地に入ってみようとする。
***
交差点で
むかし住んでいた町の
さくらが見える交差点
青信号のバスの向こう
人のかたまりが白線を渡る
ふと
むかしの僕が像を結び
さくらの木々の前に立ち一人
リュックの紐を両手で持って
きまり悪そうにしている
それから僕は粉のようにほろりと崩れ
いつも歩いた歩道に
通り過ぎた陸橋に
ファミリーマートに
雑貨屋に
公園に
本屋に
薄くまぶされていった。
僕は何かが変わって
街は、あたらしい絵の具を手にした。
時がいくつもの僕を終わらせていく。
終わらせていく。
***
もろもろの句
指さきをぶつけたときに同僚が ほんとの人だとはじめて知った
詩は君を支えるものだと知りつつも いつもテーマにされては白ける
愛の巣をかざるクレーの天使たち 何を聞いたか 瞳を閉じてる